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里海いなみ
里海いなみ
novelistID. 18142
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人形

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4.これは戦争なのよダディ!~そして全てが終わりに近付く~


止まっていた彼らが、突然動き出した。
手からはいつの間にか布が消え、その代わりに色の無い薔薇の花が握られている。
否、男だけ、茎のみのものだ。
大小はあるものの全ての薔薇が色褪せてしまったような色で、人形達はそれを握って駆け出した。

エイリースはシターリアと。

コロンビーナはセフィレールと。

そして男はカンタレラと。

まるでレイピア(装飾のなされた洋剣)を構えているような動きでそれぞれ向き合う。
キィィイ…ン。
まるで、金属が触れ合ったかのような音を立ててエイリースとシターリアの薔薇が交差した。
それを皮切りに、それぞれの戦闘が始まる。
憂いを含んでいるかような何も映していないような瞳のエイリースが淡々と薔薇の花を振るう、それを受け流し時に反撃しつつもやはり哀しげな表情なのはシターリアだ。
遊んでいるかのように楽しげに笑いながら身軽に薔薇の花と自身の身体を操っているのはコロンビーナで、そんなコロンビーナを憎憎しげに睨み付けながらセフィレールが憎悪の色に染まった薔薇の花を振るった。
勢いに負け、花びらが数枚地に落ちる。
無表情に男の動きを真似しつつも凌いでいくカンタレラに対して、男は冷静に淡々と、仇敵でも相手にしているかのように茎を振るっていった。

そしてすべてが、終わりに近付く。


    キャハハハッ!

                           許さナい…っ!

         お願いもうやめて…

                              アア、疲レテキタワ…

                   つぎはなぁに?
                

                  さぁ、終わりだよ。

男が、否、男の剣がシターリアに触れた。

がしゃん。

音を立ててシターリアが崩れ落ちる。
その身体は空洞ではなく、他の四体と同じように関節と肉体が出来上がっていた。
幸せそうな表情で、シターリアは花びらの中へと、沈んでいった。
次いでエイリースとコロンビーナが崩れ落ちる。
二人の顔にあるものは、悲しみ。
そして、もっと深い…愛しいと思う感情。
一番精神が不安定で何もかもが未完成だったシターリアの完成、そして破壊。
それを目の当たりにした二人には今までになかった感情が生まれてきたのだ。
狂喜と楽観しかなかったコロンビーナには悲しみが、憂いと諦めしかなかったエイリースには愛しさが。
そして、新しい感情に堪えきれないように…二体も花びらの海へと落ちる。
それを見届けた後、足を震わせてセフィレールが崩れた。
慟哭しながらも、静かに。
その真っ白な身体から迸る真っ黒な憎悪は変わらず、自身を捨てた人間へと向けられていた。
けれど乱れていた髪の毛は美しく波打って、新しい人形そのもので。
彼女がそれに気付いているのかは、わからない。

キィ、ン…。

男は途中から黒い薔薇を持ち出し二刀でカンタレラと切り結んでいた。
黒い薔薇が跳ね飛ばされ、地に落ちる。
しかし茎の切っ先がカンタレラの喉元へと突きつけられた。
首をめぐらせて四体が倒れているのを目に止めたカンタレラは無表情のまま崩れ落ちた。まるで、これも真似だと言わんばかりに。


そして、男が一人残された…。







4:終幕
作品名:人形 作家名:里海いなみ