クノッソス、ラビュリンス
クノッソス、ラビュリンス
迷宮の奥深くに、迷い込んで行く。
自分のいる所は明るい。しかし、一寸先は見えない。
暗い、入り組んだ通路が、どこかへつながっている。
いや、もしかしたらつながってすらいないのかもしれない。
足音は反響して、通路の奥へ、一人で歩いて行ってしまった。私という本体を置いて。
迷宮に、出口はない。入り口さえも、遥か昔に見失った。
進むたびに退路は閉ざされ、私は何時までも一人でさ迷う。
鼓膜を通り過ぎるアコーディオンの音色。
網膜を焼き尽くす夕日の赤。
迷宮の奥深くに、怪物が閉じ込められている。
自分のいる所にはいない。しかし、一寸先にはいるかもしれない。
細い、入り組んだ通路が、どこかへ伸びている。でも、どこに伸びているのかは知らない。
遠い記憶の中で、誰かが叫ぶ声がする。誰かが哭く声がする。
いつか失った私の足音が、私を追いかけてくる。
目の前を行過ぎる母の微笑。
目の前に倒れ伏す乙女の嘆き。
足音が私の後ろに立ったとき、視界の外れに、一本の糸が見えたような気がした。
ジムノペディ第一番
作品名:クノッソス、ラビュリンス 作家名:tei