凡人の非日常
鈴木君の泣き顔に胸がギュッと掴まれる感じがしてならない。
俺は鈴木君の手をひき、信号を最後まで渡り、歩き続けた。
行くあてもなく、歩いた。
午前中、手を繋いだ時は伝わってきた動揺や緊張はなく、変な脱力感だけが伝わってきた。
「何でこんなとこにいるんですか。」
鈴木君が独り言のようにボソッと呟く。
「鈴木君を追いかけてきたから。」
「何で追いかけてきたんですか。」
「鈴木君がもの凄く悲しそうな顔してたから。」
手から動揺が伝わってきた。
いとおしくていとおしくて堪らない。
もうこの手を離したくない。
でも、恋ってのは不器用だ。
どんなに思っていても口にしなきゃ伝わらない。
どんなに思っていても行動に示さなきゃ伝わらない。
「俺の事何も思ってもないくせに優しくしすんなよ!!」
鈴木君の腕が俺の手から強制的に離れる。
風が右から左に流れた。
俺達はいつの間にか橋の上にいた。