凡人の非日常
6
15分後、なんとか完成した。ケチャップでなんか書いた方がいいのかもしれないが、あえて書かず先生の前に出した。
「出来ました。お持たせしてすみません。」
「ありがと。あれ?ケチャップでなんか文字書いてくれないの?」
さっそく突っ込まれた!!
「いや…何書けばいいかわからず…。自分で好きなようにして下さい。」
「えぇーなんか書いてよ。せっかくここまで作ったんだし。」
「だから、何書けばいいかわからないですし。」
「じゃあ、ハートマークでいいよ?」
この人は何を言ってるんだ…。
「ばっバカなこといわないでくだしゃい。」
俺は動揺しすぎて思わず噛んでしまった。
「あはは!!くだしゃいだって!!かわいいなぁ、鈴木君は!!」
そのあとも先生は笑っていた。
「ずっと笑ってないで早く食べて下さい!!!」
俺はケチャップを適当にオムライスの上にかけた。
「あ!!適当にかけないでよ!!」
もう遅せーよ。
「もうどうでもいいでしょう!!冷めないうちに早く食べて下さい!!!」
俺は先生にそう言い残して洗い物を始めた。
「めちゃくちゃおいしい。」
「は?」
先生が変なことを口にした。
「すごくおいしいよ、このオムライス。」
あんなふざけたことしか言わない先生が俺の作ったオムライスを褒めた。
「別に無理に褒めなくていいですよ。」
「俺がお世辞を言うと思う?思わないでしょ。」
まぁ確かに…。
「久しぶりに手作りのもの食べたし。」
「え!!先生、料理作ってくれる彼女とかいないんですか?」
「うん、いないねぇ。彼女なんてもう1年くらいいない。」
嘘だ…。こんなイケメンに1年も彼女いないのかよ…。
「でも、その1年の間に告白はされたでしょ?」
「うん、コクられたよ。」
さらっと言いやがったぞ、こいつ…。
「なのに彼女作らなかったんですか。」
「俺、一途なんだよね。」
ん?それは好きな人としか付き合えないってことか?
それとも…
「先生は好きな人でもいるんですか?」
「ん?いるよ。」
普通に言いやがった。
「その人には告白しないんですか?」
「告白して関係が壊れるのがいやなんだよ。」
先生だったらどんな人でもOKすると思うんだけどなぁ…。
「やっと仲良くなったところだしね。」
「そうなんです…か。」
なんだか知らないが胸がズキズキする。
今日の俺は変だ。
胸が痛くなったり、ドキドキしたり、変に緊張したり…。
たった一日で別人になったみたいだ。
俺は流れていく洗剤の泡を見つめた。