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咎の連理

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序:毒芽と五式


 その大陸は五色と呼ばれた。色の名を持つ五つの国が領土を分け、それぞれに栄えている。しかしその繁栄は、決してただ平穏なものではなかった。

 大地を覆うように根を張る、黒く巨大な樹木──それは大陸の水の源であり、人々にさまざまな恵みをもたらしているが、同時にひとつの大きな災いを降らせ続ける。

 それは遙か太古に下された神罰。絶えることなく続く呪いだと、伝説にある。

「黒き樹木の天辺に、赤黒い蕾が芽吹く時──その毒芽は戦を呼び、大量の流血を欲する」
 
 十年ごとに繰り返される戦は夥しいまでの血を大地に呑ませ、人々は逃れるすべを持たない。数千年を超える歴史の中で、これまでも八百万の国々が興り、滅んでいった。
 
 しかし伝説はまた、こうも伝えている。
 
「神守生まれし時、五王地に降りて謡う。神殺現われし時、五王天に舞いて啼く。これすなわち毒芽の枯れ果てる兆しなり」
 
 
 
 五色にはさまざまな国が興ったが、同時に六つ以上の国が存在したことは一度も無かった。同時代に存在するのは必ず五国であり、それ以上にも以下にもならなかった。
 人々はひとつの太陽とふたつの月によって時をはかり、陰陽暦と呼ばれる暦を用いている。
 太陽が沈んだ後にふたつの月が同時に昇る第一月(猛月)が十日、太陽とひとつの月が沈んだ後もうひとつの月が昇る第二月(浸月)が三十日、太陽とふたつの月が時間差で昇り最後の月がに沈むまでを一日とする第三月が五日(戒月)、太陽が沈む前にふたつの月が同時に昇る第四月(静月)が百日、太陽が沈んだ後ひとつ目の月が昇り沈むまでを一日、太陽が再び昇って、また沈み、もうひとつの月が昇って沈むまでをまた一日とする第五月(裂月)が五十日──計百九十五日を一年とする。
 それぞれの月の名称となっているのは、法術によって召喚される五体の式神である。猛王(赤き炎の獅子)、浸王(青き流れの龍)、戒王(色無き大気の鳳凰)、静王(暗き大地の蛇)、裂王(白き霹靂の麒麟)。
 この五式(大陸と区別するため五王と呼ばれることが多い)こそ人々の「神」であり、自然と大局を支配する存在だった。五国はそれぞれの王を信仰し祀るが、王の怒りに触れることを行えば王によって滅ぼされると云われる。

 そして大陸暦7634年──現存するは灰(戒王)、橙(猛王)、黒(静王)、青(浸王)、白(裂王)の五国。
 その七年前──藍国滅亡の年より、物語は始まる。 
作品名:咎の連理 作家名:9.