光の箱庭
「通りすがりの中学三年生よ。あなたがこんなところで倒れてるから、どうしようかと思ってたところ」
「お、同じく。びっくりさすなや、死んでるかと思ったわ」
「……倒れてた?」
彼はふたりの言葉に心底びっくりしたように眼を丸くし、そしてがばりと起き上がる。
「っここはどこ!?」
突然スイッチが入ったように、キョロキョロ辺りを見回し、忙しない動きを見せる。どこかの誰かに少しだけ似ていると思いながら、安奈は慎重に言葉を選んで答えた。
「大阪の田舎の駅前よ」
「……?」
顔中を疑問符でいっぱいにするその反応は、なんとなく予想していたとおりのものだった。
「もしかしてあなた……」
質問する前に彼は困り果てたように安奈たちを見上げた。
「何で俺、大阪にいるんだろう?」
発音から、そうではないかと思っていた。どうやら少年は地元の人間ではないらしい。訛りのない標準語であることを見ると、出身は東京だろうか。
「わからないわ。私たちはあなたの知り合いじゃないし」
「──ちゅうか、もしかしてお前……記憶ないん?」
安奈が尋ねるのを躊躇っている事を、卓真はずばりと突っ込んだ。慎重な配慮などという言葉は、彼の辞書にない。
「……うん、そうかも」
少年は困ったように、しかし気が抜けるような笑みを浮かべながら、あっさり頷いた。