ロックンロールは巻き寿司じゃねえ!!
「あ~いらっしゃい、いらっしゃい。あ~」
何かだんだん腹が立ってきた。空腹には堪えるが、感情の自由まで奪われてはかなわんなあ。何が「ほとほと愛想尽きました」だ。古風なこといってんじゃねよ。まだ20代のクセして。昔は可愛かったのになあ。最初に会った時はあいつまだ18だったっけなあ。飛び切りセクシーに決めてたのに、今では普通のおばさんに戻りますかあ?勘弁してくれよ。すっかり化粧もしなくなったクセに気取ってんじゃねえ。ったく。相手にしてくれる男は、俺ぐらいしかいないのにねえ。
起き抜けに出て行けはねえだろ、出て行けは。「ヒトデナシ」とまでいってたなあ。そんな殺し文句、今時通用しないよ。俺だから良かったようなもんだけど。それにしても、心の準備ってモンがあるよ。やっぱ優しくねえ女だわなあ。笑顔で別れるのが人と人ってもんだよ。「俺たち動物じゃないよ?」って教えてやれば良かったなあ。まあいいや、もったい無いから教えてやんねえ。あ~チキショーメ、腹減ったなあ。腹も立つし。物売ってる場合じゃねえんだけどなあ。
「あ~あ、いらっしゃい~、いらっしゃい。」
もういいよ、来なくて。いらっしゃらなくていい。フリーマーケットは俺には合わん。何がフリマだ。時代じゃねえよ。インターネットで何でも買えるっつうの。露天商なんか流行りません。思い出したみたいに夏を利用するなっての。外で売りたきゃ、冬もそうしろよ。不公平だ。冬の気持ちも考えてやれよ。寒い寒いってそれが冬の勤めだもん。しょーがないじゃん。冬だってそりゃ寒いよ。誰か冬を温めてやれよ。夏は夏のクセに涼しい顔してんだぜ。お前は二代目加瀬大周か。爽やかぶってドロドロじゃねえか。意味分からん。ロックンロールは巻き寿司じゃありません。舐めんな。
「あ~、いらっしゃい、いらっしゃ…、あれ?あれれ?」
あいつじゃねえか。何やってんの?
あ、あれは後悔して、俺を連れ戻しに来たな。ったく、しょーがねえなあ。「やっぱり私、間違ってた」ってか?しょーがねえなあ。1日と持たねえじゃねえか。強がってんじゃないよ、ホントに。まあ、それはそれで可愛げがあるなあ。
うん?おいおい、化粧までしちゃって、昔に戻りましょってか?ますます可愛いねえ。いいよ、いい感じだよ。人生のドラマチックを分かってらっしゃる。そう来なくっちゃ。こっちだよ。こっちこっち。バッタモンのたまごっち、買ってる場合じゃないよ。ほら、そんなの置いといて、走り寄って来なさいよって。最愛の人はこんなに近くにいるんだから。「そして2人は暑い日差しの中、熱い抱擁を交わし、1つに溶け合うのでありました」。ってハッピーエンドだよ。これ。
作品名:ロックンロールは巻き寿司じゃねえ!! 作家名:佐藤英典