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ツカノアラシ@万恒河沙
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novelistID. 1469
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ぐらん・ぎにょーる

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巽は澄ました顔で言った。いつもの通り優しげに見える笑みを浮かべている。玲と神田川は思わず顔を見合わせた。優しげな笑み浮かべているからと言って、この男が本当に優しいのかは謎である。
巽はテーブルの上に、お茶の用意を手際良く始めた。それにしても、すでに金目のモノを強奪しているとは、随分と手際が良いことではないだろうか。いつのまにそんな事をしたのか。予期でもしていたのだろうか。思わず脱帽したくなるほどである。
「……どうやってそんなことができるんだよ」
神田川は半ば呆然としながら独り言のように言う。本当にどうしたら、そんな事ができるのだろうか。どのような手段を取ったのか考えるだに、恐ろしい事この上なしである。ありとあらゆる汚い手段を取ったに違いない。まあ、悪党相手なので、深くは考えずに良しとする。
「警部さん、そんな事を僕が知っているわけないでしょう」
神田川の独り言のような質問に、玲は肩を竦める。巽はもちろん神田川の質問には答える気は全くないらしい。平然としたものだった。さすがボケてるいるのに、性悪な男と言われるだけはある。神田川に諦めの表情が浮かぶ。世の中、知らない方が良いことは山ほどあるのである。
「すでに受領書も先様には送っておりますので、今頃は、黒薔薇男爵はここを破壊したことを後悔しているところでございましょう。それでは、お二人ともお茶にいたしましょうか」
巽はそう言ってにっこり笑うと、新しく用意されたテーブルにお茶の用意をし始めたのであった。清廉潔白探偵事務所で一番怖くて影の実力者なのは、多分この男であろう。いや、もしかしたら登場人物中でもかもしれない。触らぬ神に崇りなしとは、よく言ったものである。