年の差恋愛事情①
「あ、知ってますか、部長。」
「何をだ?」
「ここの伝説」
公園に、伝説。なんてものあっただろうかと眉を潜めたがそう伝説、だとか興味がない俺に分かるはずもなく素直に首を左右に振ると吉井は桜の木の下に近付き得意げな笑みを浮かべて木を一度見上げると木の太い幹に手のひらを押しあて視線を俺と合わせると口を開き唇を動かすのだ。
「桜の木の下で告白すると二人は結ばれる」
なんか素敵ですよね、と笑って言葉を付け足した。
「…あぁ、よくこの手の話しはあるが、なんだお前好きな奴でもいるのか」
なんとなく複雑な気持ちになった。別に嫉妬だとかそういうわけでもなく相当な相談事かと思ったのに恋話とは。
「はい、……あのそれで、…」
言葉はそこで途切れ吉井は顔を斜め下にやり妙に間があいてしまい伝えたい言葉も分からず首を傾げたがすぐにピンときた。恋話なら確かに照れて言えないに決まっている上に、俺は吉井の上司。確かにその相談は言いにくいかもしれない、そう言おうとした言葉は、吉井の言葉に遮られた
「俺、部長のことが好きなんです!」
嘘だと信じたかった。冗談だといってほしかった。けれど彼のほんのり赤くなっている頬がこれは嘘じゃないと物語り、そんなことを考えている間にも吉井は熱く語ってくれた
「部長が公園でいるのを見かけて俺、部長がどこで働いてるのか調べて同じ会社だから部署を変わってきて――」
今までの俺の見ていた吉井像が崩れた瞬間だった、
帰りたかった。というかもう、忘れたかった。
桜の花びらが舞うある日。
俺は吉井に告白された。
おわり