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「それに従うのは夫として合格だと思うよ。それでも乗りたいとは思うだろうけどね」
『そうなのかな』
 想像して父と母を想う。あのFZを目で追った時の父の横顔を思い出す。やはり私が生まれたから止めたんだろうか。数十年前までは父も彼みたいに旅をしてたのだろうか。結婚するまでは母も父の後ろに乗って走ったりしたのだろうか。会社と家を往復し、休日は家でゴロゴロしてテレビを見ている、そんな、どこにでもいる「普通の父親」である今の父からは想像できないが、そんな父も過去にはバイクを駆り、自由を謳歌していたのだろうか。
「お兄さんは無職なんですか?」
「コラコラ。普通のサラリーマンですよ。遅ればせながらゴールデンウィークの振り替え休日中。休日の方が忙しい仕事でね。まァ、世間様の大型連休なんぞからハズれた方がずっと楽しいけどね。ツーリングは」
「へぇ」
「人の世の、喧騒虚しく一人旅、旅の御供は鍋とバイクかな。なんてね」
「字余りですけど」
「気にしない気にしない。っと、お嬢ちゃん、そろそろ帰らなくていいのかい? 親御さんが心配するよ」
 お嬢ちゃん。まるっきり子供扱いだ。少しムッとしたが、でも、確かに彼からしたら私など子供なのだろう。そういえば、彼はいくつなのだろうか。疑問に思う。それほど老けているようには見えないが、二十代ではなさそうだ。会話の流れで聞いておけばよかったが、友達になるわけでもない、改めて聞きな直す必要もないか。
 再び腕時計に目をやる。あと十五分ほどで十時だ。アルバイトが終わる時間になっていた。
「帰ります」
「気をつけてナ」
「はい。そちらこそ気をつけてくださいね」
 二人同時にブランコから立ち上がった。私は自転車へ。彼は鍋を洗うのか、水道に向かって歩き出した。
 あれだけ邪険にしていたのに、なんだか今はまだまだ話をしていたい気分だ。別段、会話が弾んだわけでもなかったが、自分には無いものを彼は沢山秘めている気がして、もっと色々な話を聞きたかった。生活が一変する明日からの「何か」のヒントが得られそうな気がして……。

 公園の入り口まで戻り、振り返ると手を振る彼。軽くお辞儀をして公園を去る。私の秘密の場所だったはずなのに、これではまるで私がお客のようだった。
 帰りは坂を軽快に降りていく。漕ぐのはやめて重力に従う。前後のブレーキを巧みに操る。登りの半分の時間で『地上』に降り立った。コンビニにはまださっきの若者達がいた。カップ麺や何かを広げていた。『暇な人たちだな』自分の事を棚に上げてつぶやく。
「あ…」
 大事なことを思い出して急ブレーキをかけた。

「しまった、プリンのお礼、言ってないや……」


***続く