しーちゃんのこと
「私、へーって思って、リンパ腫が何かわかんなかったの。病院出たらたまたまお母さんから電話かかってきて、病院行ってたって言ったら、お母さん が「どうしたの?」っていうから、リンパ腫かもって言われたって言ったら、お母さんびっくりして「大変じゃないの! あなたそれガンよ!」って教えてくれた」
そう言いながら、しーちゃん、ちょっと笑ってた。
僕は心臓がドクンと鳴って、次に続く言葉が浮かばなかった。彼女が笑ったから、僕も笑わなきゃって思って。でも、なんだかわざとらしい笑顔になった。その時は良く分かんなくなって、「実家に帰るからもう来れない」って言えなかった。
帰る間際に、ようやく事の重大さが分かって来て、僕は何かを伝えたい気持ちになった。
「しーちゃん、ちょっと聞いて」
「何?」
「あのね、僕は君のために、多分何もしてあげられないかも知れない」
多分じゃない。何もしてあげられない。そのことは言うまでもなく分かっていた。それをわざわざ口に出して言ってしまう自分に一瞬苛立ちを覚えた。
「でもね、しーちゃん。何か出来るのことがあるのなら、何でも言って。思うようなことはしてあげられないかも知れないけど、一生懸命それをするから。とにかく一生懸命それをするから。一生懸命」
下を向いてたしーちゃんは、また泣いてた。
別れ際に「お大事に」だって。僕はバカだ。僕みたいなモンが代わりになって、命をあげたいくらいだ。しーちゃんみたいに優しい人は、長生きするべきなんだ。本当にそう思ったけど、それは言わなくて良かった。