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星の示す道

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「遥、面談終わったんならかえろーぜー」のんきに声をかけてくるのは、幼馴染の陸也だ。とても進路の分岐点に立つ高3生とは思えない。
「あんた、面談終わったの?」
「ん。おれらのクラスの先生、仕事早いから。おれなんて、3分で終わったもん」
すげー早いっしょ、と笑う陸也に、私は笑い返すことしかできなかった。
私も3分だったの、とは、なんとなく言えなかった。

「最近、暗くなるの早くなったよなぁ」陸也が空を見上げながらつぶやく。
夏はもう終わった。秋だって、すぐに終わってしまうだろう。そして厳しい冬がやってくる。光を失っていく空を見上げて、
「そうだね」とだけ答えた。冬は暗い時間が長い。あたりまえのことなのに、なんだか心細くなる。
明るい未来は、ほんとうにやってくるのだろうか、と。
「陸也は、進路面談、なんて言ったの?」なるべく何気なく聞こえるように注意しながら言ってみた。
「家業継ぐって言った」あっけからんと答える陸也に、迷いなんて微塵も感じられなかった。
陸也の家は自営業だ。一人っ子だから、陸也が継ぐほかない。本人も、それをとくに不満に感じている節はない。もう修行は始めているらしいから、やる気もあるんだろう。
少し羨ましい。自分でいちいち考えなくても、ちゃんと道が用意されている。あとはたどっていけばいいんだから。
私は、選択の自由というのをあまりありがたく思っていない。
選びたいと思うほど、私は目標を持っていないから。
「遥は?」
「進学する。知ってるだろうけど。受験勉強してるし」
「そうじゃなくてさ、将来なにになりたいわけ?」
言葉に詰まった。大学入って、それから先。将来はその先も続く。
わからない。私は、いったい、どうしたいのか。何になって、何をしたいのか。
わからないの。
「公務員、かな」正直なことは言えずに、思いついたことを言ってみる。1番無難な進路に思えた。
「なんで?」陸也はつっこんでくる。
「ほら、収入安定してるでしょ。苦労がなくていいじゃない」
「本気で、そう思ってんの?」
え、と声が自然に漏れた。
「遥さぁ、本気で公務員目指してる人にすげー失礼だよ」声だけは普段通りのように聞こえるが、間違いない。陸也は怒っている。
「だいたい考えが甘い。苦労しないわけないじゃん。公務員試験の倍率、知ってる?仮に通ったとしても、それ以降苦労しないなんて、そんなわけないだろ」
私は、何も言えなかった。陸也の言うとおり、私は何も知らない。
「何選んだって、どこ行ったって、いくらでも嫌なことがあるし、信じられないくらいひどいことを言うやつがいる。安易な考えでそういう場に出れば、絶対後悔する。で、自分には向かないんだって思うことになる」
本当は、それ以前の問題なのにさ、と陸也は言って、遠くを見るような目になる。
陸也は自営業で、社会に密接なぶん、私よりもそんな場面に出くわすことが多いのだろう。
私は、自分の甘さを、未熟さを、考えのなさを、それでも認めたくなかった。
理由もわからずに罵声を浴びせられた歌手志望の彼らの姿が強く残っていたからかもしれない。
だから、陸也に吐き出した。
路上ライブの彼らのこと。その姿に憧れたこと。理不尽な言葉。壊されたギター。そのときの彼らの表情。
忘れられない。淡い希望が黒く塗りつぶされた、あのときのこと。
陸也は黙って聞いていた。途中で口をはさむこともなかった。
「目標持たないのって、そんなに悪いこと?」私は話しの最後にそう聞いた。
認める。私は、確固としたビジョンが見えている陸也が羨ましい。
「おれ、思うんだけどさ」陸也は長い沈黙のあとに口を開いた。
「目標って、持とうと意気込んで持つものじゃないと思うんだ。自然に、やりたいことができる。その、歌手志望の彼らだって、やりたいからやってたんだ。義務じゃない。自分で納得するまで考える。誰も責任なんか取ってくれないんだからさ」
自分の人生なんだから。陸也は、そう言って、笑った。
「だからさ、遥も悩めよ。妥協せずに、納得するまで。借りものはすぐにだめになるけど、自分で出した結論なら、最後まで持ち続けられる。そういうもんなんじゃない?」
悩む。考える。選ぶ。どれも3分の進路面談では収まりきらない。
10年たっても、50年たっても、生きていられるかぎり、私は自分に問い続けるのかもしれない。
何がしたい?どうなりたい?
きっと、そうやって悩み続けていくんだろう。
「ま、もしどーしても決まらなかったら、そんときはおれんとこに来いよ。嫁にもらってやるから」
陸也があまりにさらっと言うので、私は吹き出した。
あ、笑いやがったな、とむくれる陸也を横目に、私は思う。
難しく考えることはないのかもしれない。ただ、自分に問い続けることをやめなければ。いつか、自分の中から答えは返って来る。今なら、そう思える。
すっかり暗くなった空には1番星が輝く。
10年後の私も、こうして星を綺麗だと思えるといいな。
冬の長い夜には、星がこんなにも瞬くのだから。

作品名:星の示す道 作家名:やしろ