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彼女と私の縁

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 デザイナーを目指していた彼女のついた先生が日々のストレスに負け、自殺を図ったこと。そして、時を同じくして二つ下の弟さんがギャンブルにはまり多額の借金を背負ったこと。先生の右腕までのし上がった彼女を、マスコミが放って置くこともなく……それら全てのことをハイエナのように探られ、彼女の家庭は崩壊。弟さんは失踪。借金を全て彼女が払わなくてはならなくなったようだ。

 ……そんな時、私が独立したのだ。
 そして、独りになった彼女の手を、私は振り払った。
 私は、なんて愚かだったのだろう。
 あんなにも仲の良かった彼女を捨て、自分の夢ばかり追いかけ……。
 それにしても、と思う。
 私の両親は何処にいったのだろう。
 両親を探す。靴はあった。ならば、家の中にいるはずだ。
 台所を見て、お風呂も、トイレも、両親の部屋も全て調べた。しかし、両親は見つからず……最後に私の部屋へと上がる。
 そして、見つけた。
 プラプラとだらしなく揺れる肢体。放って置かれてどれ位経ったのか分からない、変色した肌。腸のものが全て下から出たのか、嘔吐感に襲われる異臭と異物。
 私への、親を何とも思わなかった私への当て付けだろうか。
 両親は私の部屋で、首を括っていたのだ。
 そうして、知る。
 マスコミに周りを騒がれたのは、なにも彼女の家族だけじゃなかった。
 ……私の家族も、だった。
 私の知らない間に、この家にまでマスコミは押し寄せ、探り、両親の平穏を奪っていった。
 また、ある事無い事を書き立てるマスコミに、日に日に両親のストレスも溜まり、彼女の先生同様、死へと逃げたのだ。
 私は、暫く両親の死体を前に呆然としていた。
「お父さん、お母さん……」
 未だ動けずにいる私の耳に、電話の音が届いた。
 ――誰だろう?
 縺れる足を動かせて、電話に出る。
「……はい、高橋です」
『あ~、もしもし? 高橋さん? こちらぁ、お宅の庄司さんに金ぇ、貸しとるもんなんやけどな~?』
 庄司、とは私の父だ。
「父が、ですか?」
『おぉ、おまさん、娘さんかいな。あの、有名やったデザイナーの……。せやったら、金ぇ、返せるよなぁ?』
 また近いうちに取りに行く。嘘だと思うなら、家中引っくり返して借用書探してみろ。そう言って、電話は切られた。
 あの父が? そう思ったが、両親の部屋を探せばすぐに借用書は見つかった。金額は、一千万……。一体、何に使ったのだろう。
 その用途は本人亡き今、分からず仕舞いだ。しかし、借りているのは事実。そして、事務所の倒産で収入の多くを取られ、退職金としてアシスタントや従業員に払ったことによって、今の私が自由に出来るお金では足りないこともまた事実だった。
「……そ、そうよ! 家のもの、何か売れば……」
 それは、両親も考えたのか。家には売れるようなものは一切残っていなかった。
 ……こうして、私は「家」を失い、お金も失った。

◇◆◇◆◇◆

 あれから私は、俗に言う「ホームレス」の仲間入りをしていた。
 どこかの店の裏に捨てられていたダンボールを集め、家を作り、コンビニの残飯を漁る生活。
 私の身なりは、いつぞやの「彼女」と重なる。
 フラッシュを浴びていた頃は、手入れを欠かさなかった髪も、チリヂリになり、肌も汚れている。程よくついていた肉も削げ落ち、身体が皮と骨だけのようになった。
 そして、ある日見つけた新聞。そこには、あの頃の自分のようにフラッシュを浴びる彼女の写真が。
『波乱万丈な人生を経て、見事咲き開いた百合の花』
 そんな見出しが付けられた彼女の記事は、彼女がデザイナーとして成功したことを告げていた。
『借金地獄から開放。地の底から這い上がってデザイナー界に花開いた』
 その写真は、高校時代の彼女の笑顔そのものだった。
――彼女なら、彼女なら私を助けてくれるっ!
そんな考えが浮かんだ。
すぐに私は彼女のビルへと向かい、裏口で彼女を待ち伏せた。
私にも経験がある。あまりにもマスコミがしつこい場合、どんなに宣伝効果があろうと裏口から出入りすることがあるのだ。
そして、私の読みは当たった。
裏口へと通じる一本の細道の前に一台の白塗りの車が止まった。中から降りてきたのは、紛れもない彼女。
「鈴ちゃんっ!」
 久々に、彼女の名前を呼んだ。
 彼女も気づき、つけていたサングラスを外す。そして、
「……どちら様かしら?」
と、あの時の私と同じ言葉を口にした。
「え? わ、私よ? 麻美よ? ほら、高校が一緒だった……」
「記憶に無いわ」
 あの時の私も、きっと今の彼女の目をしていたのだろう。……冷たい、まるで汚いものでも見るような、蔑んだ目を。
「では、急ぎますので」
 サングラスをかけ直した彼女は、私を跳ね除け、ビルの中へと入っていってしまった。
 そこで、私は孤独を感じた。

 思えば、ブランドを立ち上げた当初の私は皆と仲良く、楽しい職場を目指していた。
 お客様を第一に、第二にアシスタントや従業員の皆を、そして、今まで私を支えてくれていた両親を大切にしようと思っていたのに。
 気づけば、全てを次に次にと後回しにして、自分を第一に置いてしまっていた。
 お客様から苦情が出始めたのも当たり前だ。
 デザインに文句が出れば、自分の意思を押し通し、意地でも変えさせなかった部分もあった。
 それに、経費削減のために布も安いものを選んだりと……手を抜いた部分もあった。
 こんな最低な私に、お客様も誰もついてくるはずはない。
「……そう、よね」
 今更遅いけど。全ては自分の撒いた種だった。
「ごめんね、鈴ちゃん。もう、邪魔しないよ」
 堅く閉ざされた扉にそう言うと、私は自分の今の「家」であるダンボールに戻った。
 それからは、たまに手に入る新聞で彼女の活躍を見ていた。

 今も、私が寒さに震えている時に彼女は暖房の効いた部屋でぬくぬくと仕事に追われているのだろう。
 こうして、私と彼女の縁は完全に……切れた。


FIN
作品名:彼女と私の縁 作家名:ちょん