マスクホン少女
―テニスコート―
昼休み。
校舎から大分離れたこの場所で、今日は昼食をとる。
あの男子が来る事を信じて。
弁当を食べ終えた。
ヘッドホンとマスクは外している。
外で二つ同時に外したのは久しぶりだ。
目の前には男子が立っている。
汗だくだ。
きっと探してくれたのだろう。
一か月前と同じように。
「やぁ」
「うん」
「今日は…外してるんだね」
「まぁね」
「何で?」
言おうかどうかためらったけど、話が進まないから言う事にした。
『あんたと話す為、歌を聴かせる為』
自分から話をしようとしている。
自分から声を聴かせようとしている。
本当に…いつ振りだろう。
「ありがとう」
男子も返す。
会話が成り立つ。
「じゃあさ…聴かせてよ」
…私は頷く。
歌う。
これから歌うんだ。
あんなに嫌だったのに…。
何の為に?
彼に聴かせる為に。
彼に私の声を聴いてもらう為に。