かいごさぶらい<上>お茶の間とヘルパーさん
「ほんまかいな?、いつそうなったっ?」茶の間、その(1)
2005/6/20(月) 午後 1:20
某月某日 家庭、家族、茶の間、団欒、これがないと、国は傾く。と、私が尊敬する大学のゼミの先生(哲学者)が言われたことを思い出した。母が悠然とTVを眺めながら。
「このひとだれや?」
「知らん人やな!」
「へぇー、にいちゃんもしらんのんっ!」
「うん、見たことない人やわ!」
「なにしてるんや?」
「何か、説明してはるん違うかな~」
「ここどこやー?」
「何処やろな、どっかの海辺やな」浜辺の風景が映っている。
「どこかもわからへんのん?」
「あーっ、お袋ちゃん、ここ北海道ちゃうかな」見た覚えのある風景が目の端に入った。
「いったことあるのんかー?」
「思い出したわ、昔、旅行で行ったわ!」
「えらい、としいったはるな~、あたま、しろ~なってるで、このひと」と、母がTV画面を指さして。
「う~ん、だいぶん、歳いったはるな、もう、え~お婆さんやな、そやけど、元気やんか」
「そうか~、あたま、しろいでぇ」その時、画面に字幕スーパーが流れた。
「00町の0000さん、79歳やて~」字幕を読んで母に言う。
「そうか~、なにしてはるひとや?」
「00つくったはる人や、言うたはるでぇ」
「00て、なんやのん、としいったはるなぁ」
「うん、そやけど、お袋ちゃんより、ずっ~と若いから、元気やんか」
「わて、なんぼや?」と母が聞く。
「忘れたら、あかんやん、お袋ちゃんは、90うん歳やんか~?」
「あーっはははーっ、ほんまかいな?いつそうなったん?」と母が可笑しそうに笑う。
「うん、、、、、、、」俗世にいる凡人の私には到底及ばぬ母の笑いである。母は3日後に誕生日を迎える。また一つ齢を重ねるのだ。
「お袋ちゃん、今日も元気で良かったな~」と母に言うのが精一杯だ。
「もう、ねましたか?、へんじぐらいしんかいなっー!」茶の間、その(2)
2005/6/21(火) 午後 0:35
某月某日 デイ施設からの連絡帳に「今日は入浴を強く拒否されました」と、記されてあった。案の定、ヘルパーさんから「00さん、ご機嫌斜めで、ちょっとあばれましてん」と言われ。「そうですか、ご迷惑かけました、すんません」と、ヘルパーさんに謝った。
「優しくしてあげて下さいね」と、ヘルパーさんが気遣って。
「はい、分かってます、お~気にぃ」デイでの、母の様子を知る貴重な情報だ。
「そろそろ寝よか、うつらうつらしてるで~、お袋ちゃん」
「う~ん、そんなじかんかー?」眠そうな母。夕食後、母はデイでの疲れからか、座椅子にもたれかかり気持ちよさそうに、まどろんでいた。
「風邪引いたら、あかんから、なっ、寝よ~」と、声をかける。
「おしっこっ!」
「よっしゃ、おしっこしたら、寝よな~」トイレを済ませ、母を寝床へ。
「はい、此処やで、お休みやで~」
「こんなとこで、ねんのんか?」
「そうや、何時も、此処やで!」
「はい、お休みなさい」しばらくして、私も寝床へ。
「おね~さ~ん、おね~さ~ん、ねたん?」と母の声がする。
「もう、寝るよ~、どうしたん?寝られへんのんか?」
「ねむたいねんけどな~、どうしてるんかな~と、おもうて」と、母が四つん這いになって、私の寝床の足元までやって来た。
「ふっふ~ん、にいちゃんやっ!、ねてるんかー!」見~つけたーと、言わんばかりの母の笑顔があった。
「うん、もう、寝るよ~、お袋ちゃんも寝~や!」
「あいよ~」ご返事よろしく、母は自分の寝床へ戻って行った。こういうときにこそ、油断は禁物。私は母を追いかけた。
「うん、、、、、、、ちゃんと、かぶりや、風邪ひかんようにな~」母が、掛け布団もしないで横になっていたのだ。
「わかってますぅ~」しばらくして。母の声が。
「もう、ねましたか?」
「うん、、、、、、、、」と、私が小さな声で返事したのだが、聞こえ無かったのだろう。母が。
「へんじぐらいしんかいなー!」と、大声を挙げた。このやり取りが、数回は続くのだ。生返事は見透かされるのだ。
「あほちゃうかー!、そんなことせーへんわっ!」茶の間、その(3)
2005/6/22(水) 午後 0:33
某月某日 母は、幼い頃から、気管支に持病があり、顔を真っ赤にして、年中「咳」をしている。本人は「風邪」だと思っているようだ。母のティシュペーパーに対する執念は、その辺にあるのではないか、と私は推測している。
「あぁ~あ、お袋ちゃん、そんなとこで、ぺーッ、したらあかんやんか~」
「ぺーっ、ぺー、ぺーっ!」聞く耳持たぬ母。
「あ~あ、ティシュでせなあかんで~、絨毯に染み込んだら汚れがとれへんやんか~?」と、取りあえず小声で呟く私。
「カミかしてぇー」
「ちょっと、待ってや、直ぐ、拭くからな」絨毯を、濡れティシュで拭き取る私など、母の眼中にはない。
「はよ、かしぃーな、カミかしぃー!」これ以上待たせるとまずい。私の経験則がそう言っている。
「はい、これ、ほれな~、此処、汚いやろ~、紙あるから、咳が出そうになったら、紙にしぃーや」
「わかってるがな!」ティシュを引ったくりながら、母が仰る。
「あっち、こっち、ぺっぺ、ぺっぺ、したらあかんねんで~」と、呟く私。
「そんなん、してないーっ、ばかにして!」この呟きを、聞き逃すはずがない。母の声のトーンが上がった。
「うん、、、、、」(これ以上、言うのはまずいかなー)。先日も、デイの連絡帳に。
「今日も床にツバを吐かれました」と記されてあった。
喘息ではないが。母の場合は気管支が生まれつき細いのだそうだ。下の入れ歯を無くして製作中のため、唾液が溜りツバが余計に出るようである。
「入れ歯もう直ぐ、出来るから、ぺーぺー、吐くの止めよな~」とやんわり。
「してないっ、ゆーてるやろーっ!」
「うん、、、、、」(まずかったか!、私の経験則が、、、、)。
「分かった、出るんやもん、しょ~ないな、紙にするよ~にしたらえ~んやから」
「ちゃんと、してるわいなー!」
「ご免、病気やからな~、しょうないわ!、ツバ出るんやもん、吐いたらえ~わ」
「アホちゃうか、きたないのに、そんなことせーへんわー!」と母。
「うん、、、、、、」(母の方が鋭い、私は手もなく切り返えされたのだ)。朝、母の寝床の回りには、あちら、こちらに、ティシュの固まりが散らばっている。(掃除をすれば済むことで、まあどう~と言うことでも無い。病気の方が心配だ)。
PS 今日は、お袋ちゃん、のお誕生日です。90うん歳になりました。お袋ちゃん「おめでとうなー」。好物の「カステラ,買ーて帰るからねー」。
「へー、そんなんなったん!、いつからやー」茶の間、その(4)
2005/6/23(木) 午後 0:42
某月某日 夕べは蒸し暑かったのか母はいつもより、徘徊の回数が増え親子ともども、よたよたの朝を迎えた。
2005/6/20(月) 午後 1:20
某月某日 家庭、家族、茶の間、団欒、これがないと、国は傾く。と、私が尊敬する大学のゼミの先生(哲学者)が言われたことを思い出した。母が悠然とTVを眺めながら。
「このひとだれや?」
「知らん人やな!」
「へぇー、にいちゃんもしらんのんっ!」
「うん、見たことない人やわ!」
「なにしてるんや?」
「何か、説明してはるん違うかな~」
「ここどこやー?」
「何処やろな、どっかの海辺やな」浜辺の風景が映っている。
「どこかもわからへんのん?」
「あーっ、お袋ちゃん、ここ北海道ちゃうかな」見た覚えのある風景が目の端に入った。
「いったことあるのんかー?」
「思い出したわ、昔、旅行で行ったわ!」
「えらい、としいったはるな~、あたま、しろ~なってるで、このひと」と、母がTV画面を指さして。
「う~ん、だいぶん、歳いったはるな、もう、え~お婆さんやな、そやけど、元気やんか」
「そうか~、あたま、しろいでぇ」その時、画面に字幕スーパーが流れた。
「00町の0000さん、79歳やて~」字幕を読んで母に言う。
「そうか~、なにしてはるひとや?」
「00つくったはる人や、言うたはるでぇ」
「00て、なんやのん、としいったはるなぁ」
「うん、そやけど、お袋ちゃんより、ずっ~と若いから、元気やんか」
「わて、なんぼや?」と母が聞く。
「忘れたら、あかんやん、お袋ちゃんは、90うん歳やんか~?」
「あーっはははーっ、ほんまかいな?いつそうなったん?」と母が可笑しそうに笑う。
「うん、、、、、、、」俗世にいる凡人の私には到底及ばぬ母の笑いである。母は3日後に誕生日を迎える。また一つ齢を重ねるのだ。
「お袋ちゃん、今日も元気で良かったな~」と母に言うのが精一杯だ。
「もう、ねましたか?、へんじぐらいしんかいなっー!」茶の間、その(2)
2005/6/21(火) 午後 0:35
某月某日 デイ施設からの連絡帳に「今日は入浴を強く拒否されました」と、記されてあった。案の定、ヘルパーさんから「00さん、ご機嫌斜めで、ちょっとあばれましてん」と言われ。「そうですか、ご迷惑かけました、すんません」と、ヘルパーさんに謝った。
「優しくしてあげて下さいね」と、ヘルパーさんが気遣って。
「はい、分かってます、お~気にぃ」デイでの、母の様子を知る貴重な情報だ。
「そろそろ寝よか、うつらうつらしてるで~、お袋ちゃん」
「う~ん、そんなじかんかー?」眠そうな母。夕食後、母はデイでの疲れからか、座椅子にもたれかかり気持ちよさそうに、まどろんでいた。
「風邪引いたら、あかんから、なっ、寝よ~」と、声をかける。
「おしっこっ!」
「よっしゃ、おしっこしたら、寝よな~」トイレを済ませ、母を寝床へ。
「はい、此処やで、お休みやで~」
「こんなとこで、ねんのんか?」
「そうや、何時も、此処やで!」
「はい、お休みなさい」しばらくして、私も寝床へ。
「おね~さ~ん、おね~さ~ん、ねたん?」と母の声がする。
「もう、寝るよ~、どうしたん?寝られへんのんか?」
「ねむたいねんけどな~、どうしてるんかな~と、おもうて」と、母が四つん這いになって、私の寝床の足元までやって来た。
「ふっふ~ん、にいちゃんやっ!、ねてるんかー!」見~つけたーと、言わんばかりの母の笑顔があった。
「うん、もう、寝るよ~、お袋ちゃんも寝~や!」
「あいよ~」ご返事よろしく、母は自分の寝床へ戻って行った。こういうときにこそ、油断は禁物。私は母を追いかけた。
「うん、、、、、、、ちゃんと、かぶりや、風邪ひかんようにな~」母が、掛け布団もしないで横になっていたのだ。
「わかってますぅ~」しばらくして。母の声が。
「もう、ねましたか?」
「うん、、、、、、、、」と、私が小さな声で返事したのだが、聞こえ無かったのだろう。母が。
「へんじぐらいしんかいなー!」と、大声を挙げた。このやり取りが、数回は続くのだ。生返事は見透かされるのだ。
「あほちゃうかー!、そんなことせーへんわっ!」茶の間、その(3)
2005/6/22(水) 午後 0:33
某月某日 母は、幼い頃から、気管支に持病があり、顔を真っ赤にして、年中「咳」をしている。本人は「風邪」だと思っているようだ。母のティシュペーパーに対する執念は、その辺にあるのではないか、と私は推測している。
「あぁ~あ、お袋ちゃん、そんなとこで、ぺーッ、したらあかんやんか~」
「ぺーっ、ぺー、ぺーっ!」聞く耳持たぬ母。
「あ~あ、ティシュでせなあかんで~、絨毯に染み込んだら汚れがとれへんやんか~?」と、取りあえず小声で呟く私。
「カミかしてぇー」
「ちょっと、待ってや、直ぐ、拭くからな」絨毯を、濡れティシュで拭き取る私など、母の眼中にはない。
「はよ、かしぃーな、カミかしぃー!」これ以上待たせるとまずい。私の経験則がそう言っている。
「はい、これ、ほれな~、此処、汚いやろ~、紙あるから、咳が出そうになったら、紙にしぃーや」
「わかってるがな!」ティシュを引ったくりながら、母が仰る。
「あっち、こっち、ぺっぺ、ぺっぺ、したらあかんねんで~」と、呟く私。
「そんなん、してないーっ、ばかにして!」この呟きを、聞き逃すはずがない。母の声のトーンが上がった。
「うん、、、、、」(これ以上、言うのはまずいかなー)。先日も、デイの連絡帳に。
「今日も床にツバを吐かれました」と記されてあった。
喘息ではないが。母の場合は気管支が生まれつき細いのだそうだ。下の入れ歯を無くして製作中のため、唾液が溜りツバが余計に出るようである。
「入れ歯もう直ぐ、出来るから、ぺーぺー、吐くの止めよな~」とやんわり。
「してないっ、ゆーてるやろーっ!」
「うん、、、、、」(まずかったか!、私の経験則が、、、、)。
「分かった、出るんやもん、しょ~ないな、紙にするよ~にしたらえ~んやから」
「ちゃんと、してるわいなー!」
「ご免、病気やからな~、しょうないわ!、ツバ出るんやもん、吐いたらえ~わ」
「アホちゃうか、きたないのに、そんなことせーへんわー!」と母。
「うん、、、、、、」(母の方が鋭い、私は手もなく切り返えされたのだ)。朝、母の寝床の回りには、あちら、こちらに、ティシュの固まりが散らばっている。(掃除をすれば済むことで、まあどう~と言うことでも無い。病気の方が心配だ)。
PS 今日は、お袋ちゃん、のお誕生日です。90うん歳になりました。お袋ちゃん「おめでとうなー」。好物の「カステラ,買ーて帰るからねー」。
「へー、そんなんなったん!、いつからやー」茶の間、その(4)
2005/6/23(木) 午後 0:42
某月某日 夕べは蒸し暑かったのか母はいつもより、徘徊の回数が増え親子ともども、よたよたの朝を迎えた。
作品名:かいごさぶらい<上>お茶の間とヘルパーさん 作家名:かいごさぶらい