有馬琳伍氏の悲劇、もしくは24人の客
F少年の恋人と灰
F少年の足元には、二人といない恋人の屍体。ついさっき、この世から命の炎が消えたのに、すでに灰になって消え去ろうとしている。極東の地に来てから数ヶ月。まさか、こんなところで尽きようとは。慌てて灰をかき集めようとするが、指の間からさらさらとこぼれてしまう。この場合、せめて箒とちりとりがあれば、どうにかなるかもしれないが(できれば、掃除機が望ましい)、残念なことに、こんなシリアスなシーンに、そんなものが用意されているはずもなかった。呆然とする少年と、さらさらと砂のように崩れ落ちる体。そして、それで終わりの筈だった。後日、少年は灰の一部が、壜詰めにされて何者かの手に渡った事を知った。少年が立ち去った後に、小瓶につめて売り払ったものがいたのである。売り払った奴を捕まえると、小瓶が今どこにあるか聞き出した。どうやら、閼伽無市の変わり者の資産家が買い取ったらしい。そして、ある書物である事を知った少年はどんなことをしても、その灰が入った壜を取り戻すことにした。どこへ行こうとも。見つけようと誓った。何に誰に誓ったのだろうかとは、言わないように。
作品名:有馬琳伍氏の悲劇、もしくは24人の客 作家名:ツカノアラシ@万恒河沙