雲雀
――答えはない。ただそこに高校生が二人いるだけだ。
「僕はもう今日は狼にはならない」
「狼さんが休業中。じゃあ私が今度は雌豹かな」
「雲雀が豹になるなんて話聞いたことないぞ?」
「そんなことないよ。私は雲雀だよ」
そう言うと胡散臭く見えてくる。集中して彼女の一点を凝視する。そうするとむしろさっきの豹がしっくりきた。
彼女の仮の姿に騙されていたのはどうやら僕のほうだったらしい。
「私には一回とかルールがないから安心してね」
彼女の笑顔はなぜか美しい反面迫力があった。
「驚いたな。同族か」
「同族? 匂いをかぎ分けるのは多分、私のほうが優れてるわ。あなたはまだ仮じゃない?」
「はぁ。それはどうも。私には関係ない話で」
「おいしくない話には興味ないって?」
「もうその手の事は飽きたんだよ。だから保健室で仕事混じりに遊んでるんだ」
「外に出ればもっと楽しいのに?」
「雲雀は籠にいるから雲雀なんだぜ。もう現在では飼育が禁止されてるんだ、本当は」
「あなた……最初から知っていた」
「同族なら気づけよ……というかお前はそれでも雲雀だよ。外に出てない」
「なんなの? あなた本当に」
「だって君には友達だっていないし信じられる人間なんていないんだろう? だから籠の中の鳥なのさ。その姿をしている限りね」
「ははは、私はそんなわけないわ」
「そう思ってるなら家に帰って鏡をみてごらん。何がうつるんだ?」
――そうだよ。それが現実の世界。後戻りするなら今しかないんだ。
「うっうっ……」
本当の泣き声で泣く少女。もはや翼のひしゃげた雲雀だ。飼うことの出来ない禁止された鳥。
「さようなら、白鳥に生まれ変わったらまた逢いにこい」
俺は保健室から出てまた天国へと一服しようとする。
天国からの空は澄みきっていた。
<終>