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雲雀

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「今日もまた、優しく……」
 そう女は呟いた。
だから僕はリクエストに答えようとする。
 あまりにも動機はくだらないものだった。
高校生がお酒に溺れて勢いに任せた、それのほうがよっぽどそれらしかっただろう。
僕だってそのほうがお酒のせいだとかそんな理由で自分が逃げられただろうにと自分で毒づく。
「あなたはどうして……」
そんな下らない理由は強引に塞ぐ。自分の存在も理由もいらない。僕たちは高校生、青春真っ只中なのだ。

 僕は先に保健室を出ていた。全くをもって報われたりはしない。逆に胃がむかむかするくらいだった。
 彼女は今は保健室で寝ていることだろう。
全くいい気なものだ。
さっきの女もいつか前の女もそうやって安い何かをおし売りしてきたのに俺は安易に買ったりはしない。強いて言えばそれは買うというより『奪う』だ。慈善行為? そうであったらどんなによかったか。慈善というよりはむしろ『偽善』だな。偽善の心を与えて彼女はきっと僕が偽ってしまった何かに心から注がれたと言ってもいい。そうやってまた僕は何かを奪う、というよりその何かを栄養にして食べて生活しているのかもしれない。だってこれが日課みたいなものだから。
――ではその人の心を食べているのか?

 そんなくだらない事を考えた俺は腹ごなしの運動を終え屋上――通称『天国』で一服いれる。僕の心は決して止むことはないだろう。病まない事もないのだ、と。
そうしてまた心は満たされないまま保健室で下らないやりとりをするのかもしれない。無駄だとわかっていてその半壊、半身といってもいい人間を愛でればいつかは自分が修復できるんじゃないかって下らないことを考えたりするが、悪循環のループからは逃れられそうにない。
 僕は一生の孤独心を条件に人の心を弄る権利が与えられた悪魔なのかもしれない。粗大ゴミからもしかして使えるんじゃないかって自分の大事な物をすくい上げてみたはいいけど今回もやっぱり捨ててしまうのだ。
「愛してるよ」
「うん、悪意してる」
 また、女とのいつものやりとり。
そういう時はきまって喉の奥から嘔吐したくなる。きっと嘔吐してでるのは「嘘」だろう。
 嘘を吐いて生きている……口にするのは現実を忘れられるタバコと酒とコレだ。
――それが……俺なのだから。間違いなく自分は狂っているのだ。それは理解している。一人称が不安定で多重人格、そんな風に冷静に判断してしまう自分が気味悪くなってくる。、そしてこの生活は・・・・・・。
――黒い青春だろう。

隣には萎れた草花のような体勢で腕に傷をつけた女が寝ている。ありえないようで現実だ。いつか前は浮気相手がそこにいたかもしれないし、保険医が私を看ていたかもしれない、いや私が看ていた側かもしれない。しかし、彼女らは街中にいれば至って普通にみえるものだ。自分のほうがよっぽど社会では迷惑なのだろう。 
僕は保健室独特のエタノールの臭いで深呼吸をした。しかし、モヤモヤは残ったままであった。もう私は自分の相手のことをモノか動物だと思っていないと気がふれてしまいそうだった。
今日の女はあまりに自分の家庭が不自由すぎて籠鳥のようだから雲雀とつけた。
「雲雀かぁ。全く私にぴったりかもね」
雲雀は囀るかのようにか細い声でつぶやいた。
人は危険だとわかっているからこそ逆に踏み込みたがる・・・・・・そう危険と分かっていながら。 
その典型例として保健室に僕に逢いに来たのだろう。
「私は、外にでたいのに親におしつけられてるの」
「普通にいい親じゃないか。うちの家なんて弟につきっきりで俺は放置されてる状態だよ」
「違うの、私はみんなと同じように携帯を持ちたいし、お化粧だってしたい。かわいい服だって着たいし、バイトもしたいんだよ?」
彼女の外見は一言で表せないほどの容貌だった。まさしく繊細の中の繊細というべきか。感情の表現ごとに顔がころころとかわる豊かというべき人であった。どうみても雲雀にしておくにはもったいない白鳥であった。
そりゃ親だって大事にしたいだろう。
これから僕はこの白鳥の翼を捥ぎ取ろうとしてるといっても過言ではないが、所詮翼の生えてない鳥に飛べぬように、飛ぶことのできない鳥、籠鳥は家の中でしか飛べぬ雲雀なのだ。
「親に対してできる最大の抵抗みたいなものかな。私だってもう17歳だよ。結婚だってできる」
「そう? じゃあベッドに寝て脱いで」
 俺としてはいつもの仕事をこなすだけ。女の話は相槌を適当に打って適当に流すだけだ。
 彼女はキメ細かい白い肌が露になる。彼女の匂いはカーネーションに近いものを感じた。
「いや、普通にボディーソープだよ」
「そう? じゃあ体臭かもね」
「体臭っていやな響きね。」
「じゃあフェロモンか」
「ちょっと大人ぽくていいかも」
 そんな会話をしながらも雲雀の肌に指をはわしていく。雲雀は翼をばたつかせることなくただただ最後まで俺の手に収まったのだった。
「私、どうだった?」
「うん、雲雀は綺麗だったよ」
 タバコに火をつける。煙は窓からくる風をうけあたり一面に飛び交っていく。
 煙草とピロートークのミックスは俺にとって最高の味だ。
「綺麗? ふふふ、ありがとう」
 彼女は顔を下に背けた。
「ん? どうかした?」
「なんでもないわ、ただ予想してたより面白くなかったかな」
「そりゃ、そういうもんだからな。大体お互い初対面で何も知らないんじゃ」
「そう、雲雀は白鳥になれないのかな?王子様とか迎えに来ないのかな」
「君が大人になったら白鳥になれるんじゃないかな。それまでは我慢さ」。
「我慢はしたくないな。今だからこそしたい事ってあるわけじゃない?」
「今だからか。ま、女性ってナマモノだよね。足が早くて鮮度が命っていうかさ」
「それじゃ雲雀は刺身にされちゃったのね。あなたによって」
「でも優しく刻んであげたつもりなんだけど」
「ありがとう、初対面なのに」
「礼、よりかはもう少し囀りがききたかったかな」
「カラオケなら喜んで」
「なんだ、急に冷たいじゃないか」
「そう? わかんないかな、私、歌はうまいんだよ」
「僕は嫌いだな。他人の歌聞くの、あんま好きじゃないんだ」
「なんだ残念」
 僕と雲雀の遠まわしの駆け引きは成立せずに幕をとじた。
一度、手をつけた相手には深く関わらない。それが徹してきたルールだからだ。
「そっか、なんとなくわかったかも」
「うん?」
「いやなんでもないよ。こっちの話」

しかし、彼女はまた会うことを止めなかった。
「俺のような狼と関わりがるとはなんとも物好きですね、雲雀さん」
「なんとか携帯をもつことが許されたので報告にきました」
「ふうん、よかったじゃん」
「でも、雲雀は友達がいないのでアドレス1件も入ってないんですよ。あと携帯の打ち方もわからなくて」
「……なら貸してごらん」
 強引に携帯を奪おうとして彼女に素早く手を握られた。俺は当然のごとく引き剥がす。
「一回だけってルールだからな」
「雲雀はどうしたらいいんですか?」
雲雀は眼を潤ませて今にも泣きそうな顔をしている……が俺にはそいつがむしろ嗤っているように見えた。
 さぁどっちが重症だろう? 彼女か僕か?
作品名:雲雀 作家名:。。