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ラベンダー
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novelistID. 16841
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銀髪のアルシェ(1)~救いを求めない悪魔~

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「…あいつらは、救いを求めてるんだ。」
「!?…救いを?」
「そう…君の歌声を聞くことで…救われることを求めている。…だが…」

ザリアベルは圭一に振り返り、苦笑するように口をいがめた。
その目は青くなっている。

「…悪魔に救いは来ない。」
「!?…そんな…」
「…神は残酷なんだ。…君が思っているよりずっとね。」
「どうしても無理なんですか?」
「無理だ。…悪魔は消滅するか、生き続けるかどちらかしかない…。」
「……」

圭一は悲しそうに手に抱いたキャトルを見つめた。キャトルが「にゃあ」と鳴いた。
そのキャトルの声に、ザリアベルがまた苦笑した。

「そうだな…その子猫の言う通りだよ…。消滅することが彼らにとって一番の幸せなんだ。」
「……」

圭一は黙り込んでいる。ザリアベルが青い目のまま言った。

「圭一君と言ったな。」
「…はい。」
「今日言っていた「フィンランディア賛歌」を歌ってくれ。」
「今…ですか?」
「そう…今だ。…奴らを消滅させる。」
「!!…ザリアベルさん…」
「…また仲間を失うことになるが…仕方あるまい。奴らが望んでいることだ。」

ザリアベルは、圭一に背を向けた。

「ザリアベルさんは?」
「さぁ…俺もどうなるかな…。君の歌を聞いてみないことには、わからない。」
「!!」
「…動けなくなったら、奴らを消滅させることはできなくなる上に、君の天使たちにやられるだろう。」
「そんな…」
「ほら…迷っている暇はないぞ。君の天使たちが手こずっている。」
「!…」

圭一はアルシェとリュミエルを見た。2人の力が弱ってきているのが目に見えてわかる。

「…わかりました…」

圭一は態勢を整えた。キャトルが圭一の手から飛び降りると圭一の横でお座りをして、悪魔たちの方を見た。

圭一は「フィンランディア賛歌」を歌いだした。声がかき消されないように、体中の力を振り絞って歌い出す。英語のその歌詞は、フィンランド人達の誇りと団結を讃えるものだった。
アルシェとリュミエルが圭一の声に驚いて、圭一に振り返った。
悪魔たちの羽が次々に止まり、海に落ちていく。2体、3体と海に浮かび始めた。

ザリアベルは身じろぎもしない。動きが封じられているというより、聞き入っているように見える。
リュミエルが両手を伸ばして重ね、ザリアベルに向けた。

「!待て!リュミエル!」

圭一が歌いながら、ザリアベルの前に守るように立ったのを見て、アルシェがリュミエルを止めた。

「圭一君に任せよう。」

アルシェが、歯ぎしりしているリュミエルに言った。リュミエルが手を下ろした。
悪魔たちは苦しんでいるものの、まだ耐えている数が多かった。さすがの圭一の歌でも、すべての悪魔の動きを封じ込めるのは無理だ。
目を閉じて圭一の歌を聞いていたザリアベルが赤い目を開いた。そして圭一の横に立ち、空の悪魔たちに向かって親指をつきだすと、ゆっくりΩ(オメガ)のマークを描いた。
アルシェがはっとした。消滅紋である。

「!!…圭一君、伏せろ!!」

アルシェはリュミエルを押し倒しながら叫んだ。
鋭い光が周囲を包んだ。音のない爆発が起こった。

……

圭一はその場に倒れていた。キャトルも圭一の傍で体を横たえている。
アルシェとリュミエルも、離れた場所で倒れたまま動かない。

悪魔たちの姿は全く消えていた。空にも海にも1体たりとも姿が見えない。

ザリアベルは、倒れている圭一を見た。

「…ありがとう。また歌を聞きに来る。」

ザリアベルはそう言うと、背を向けてゆっくり歩き出した。

……

翌朝-

浅野は目を覚ました。

「?」

起き上がってから、首を傾げた。

「…なんかおかしいな…夢か?」

そう呟いて、頭を掻いた。

「…そうだよなぁ…ザリアベルに会えるなんて事…そうそうないんだから。」

浅野はそう苦笑しながら言うと、ベッドから降りた。

「それも、ザリアベルがクリームシチューを食べるなんてのも、考えてみればおかしな話だ。…俺って、お茶目ー!」

そんなことを言いながら伸びをした。

……

浅野は圭一の家の呼び鈴を押した。

「はい!」

インターホンから圭一の声が返ってきた。

「浅野だよー!」
「どうぞ!待ってたんですよ!」
「了解ー」

リュミエルはいないが、夢とほぼ同じだな…と浅野は苦笑しながら、玄関を入った。
くつを脱いで、ダイニングに向かう。

(夢なら、ここにザリアベルが…)

そう思いながらダイニングを覗くと、あまりの驚きに玄関に飛びずさった。

「浅野さん?」

圭一が玄関まで浅野を追いかけてきている。

「…ザ、ザリアベルが…いるの?」
「ええ。昨日のお礼に僕が呼んだんですよ。」
「夢じゃなかったの?」

圭一が笑った。

「違いますよ。」
「ザリアベルを呼んだってどうやって?」
「会いたいって念じてたら、来てくれました。」

浅野は「そんなべたな!」と思わず言った。
リュミエルがダイニングからスプーンを持ったまま、現れた。

「何してるんだよ?」
「リュミエルっ!?お前いたのか!?」
「うん。ザリアベルと一緒にチャーハン食べてたんだけど。」
「ザリアベルとチャーハン!?」

合わない取り合わせだ…と浅野は思った。ある意味、見たくない光景とも言える。
しかし浅野はため息をついて、ダイニングに入った。

(終)