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ラベンダー
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銀髪のアルシェ(1)~救いを求めない悪魔~

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救いを求めない悪魔



「うざい…」

天使アルシェの人間形「浅野俊介」は、思わずマンションの自室で呟いた。

このところ「清廉な歌声を持つ魂」である北条(きたじょう)圭一に、次から次へと下級悪魔が戦いを挑んでくるのである。
圭一の歌は、悪魔の動きを封じ込める力を持つのだが、救いを求める悪魔だけに効果があると言われる。だが圭一の歌は、今までどの悪魔も動きを封じ込めてきたので、関係ないのかな?と浅野は思っていた。それも驚いたことに、讃美歌に限らない。圭一の鼻歌でも、動きを封じ込められたようなどじな悪魔もいるため、悪魔たちにとって圭一が脅威であることは確かである。
だが、今のところ上級悪魔が来ることはない。万一、自分たちが出て圭一に動きを封じ込められてしまったら、プライドが許さないんだろうと浅野は思う。そのため、大きな戦いにはならないが、下級悪魔たちの間断ないちょっかい(天使アルシェにしてはその程度のもの)に頭を抱えている。それも圭一に気を遣わせないよう、気付かれないように封印または消滅させなければならないので、浅野も、リュミエルも、キャトルも疲れ果てていた。

突然、天使リュミエルが現れた。この男(?)には珍しく、顔色が真っ青になっている。金色の髪に照らされて、どちらかというと白く見えるほどだ。

「とんでもない奴を見た…」
「飛んでもない奴?…じゃぁ歩いてるのか?」

リュミエルが目を吊り上げて、浅野の首に両手を回した。

「すいません!もう言いません!」
「ザリアベルだよ!!」
「ザリアベル!?…シャベルじゃなくて!?」
「本気で怒るぞ!」

真剣な時につい茶化してしまう癖のある浅野に、リュミエルが本気で浅野の首に回した両手に力を込めた。

「ごめんなさい!!…もう言いません!」

浅野が慌てて言った。リュミエルは浅野を突き離すようにして手を離した。浅野は首に手をやりながら言った。

「いや、冗談抜きで…本当にザリアベルだったのか?」
「あの姿を見間違える訳ないだろう!?」
「…そういや…そうだ…」

浅野は納得した。

ザリアベルとは、魔界の中では「大悪魔」という階級で、魔界と人間界を生体とともに行き来できる悪魔である。浅野が以前生体を持つ天使だった時は、生体が邪魔をして魔界も天界も行き来できなかった。本来はそれが普通なのだが、ザリアベルは唯一それができる存在なのである。人間だった頃の貢献から、魔王からもらった力だと聞いたことがある。
悪魔たちを統率し、天使はおろか神まで殺せるほどの力を持っている。実際に邪神を殺した経歴も持っているという。敵に回すともうこちらの命はないとあきらめるしかない。
またその姿は、顔の両頬に長短2本ずつの傷があり、目は常に赤い。人間界では異様な様相とも言えるその姿で、ザリアベルが人間界を歩きまわれば、リュミエルが言うように、見間違えるはずはないのである。

「よく、警察官に職務質問されないものだよ…」

浅野が思わずそう呟いてから、はっとした。

「おい、ちょっと待て!圭一君を狙ってるかも知れないってことか!?」

浅野が声を上げた。リュミエルは「気付くの遅いぞ」と舌打ちした。

「だから、とんでもない奴だって言ったんだ。」
「この際、飛んでくれっ!」
「お前はまだそんなこと…!」

浅野はリュミエルにまた首に手をかけられた。

「ごめんなさい!つい口から出ちゃうんだってばっ!!!」
「2度と口をきけないようにして欲しいか!?」
「嫌です!すいません!ごめんなさい!」

浅野は両手を合わせて懇願している。

……

2人がそんなことをしている同時間-

圭一は、2人の警察官に職務質問されている男をふと見た。
目の下に2本の傷があり目は赤い。異様な雰囲気に警察官が不審に思ったのだろう。男はじっと警察官たちを見て黙り込んでいる。

圭一は思わず駆け寄った。
警官が圭一を見た。そして思わず「あれ?君、アイドルの…?」と呟いた。

「はい。北条圭一です。…この方がどうしました?」

男が圭一を見て、赤い目を見開いた。

「こんにちは。どうしてこんなところに?」

圭一が親しげに話しかけた。

「北条さん、お知り合いですか?」

警察官が言った。

「はい。うちのプロダクション関係の人なんですよ。こういう格好するのが仕事なんです。」
「そうなのか。」

警察官たちはほっとしたように顔を見合わせた。

「これは失礼しました。」

警察官たちは男にそう言い、警察帽を少し上げると、その場を立ち去って行った。

男は圭一を見て言った。

「…清廉な歌声を持つ魂…」
「やっぱり…天使か悪魔か…その類の方だと思いましたよ。」

圭一がそう言って微笑んだ。

「北条圭一です。お名前をお聞かせいただけますか?」
「…ザリアベルだ。」
「ザリアベルさんですか。よかったらうちに来ませんか?そのお姿で外におられると、また職質(職務質問)受けますよ。」

男、ザリアベルは目を見開いた。

……

とりあえず、浅野とリュミエルは、圭一の家に行くことにした。
明良(あきら)達がいるかもしれないので、圭一の家の玄関まで瞬間移動し、浅野の姿で呼び鈴を押した。リュミエルは隣にいるが、明良達には見えないので気にすることはない。
インターホンから、圭一の声がした。

「はい?」
「浅野です。」
「あ!待ってたんですよ!どうぞ!玄関開いてます!」
「了解!」

浅野がそう言うと玄関を入った。リュミエルがついてきている。浅野は靴を脱いで、玄関を上がった。

「お、いい匂い!クリームシチューだな、こりゃ。」

浅野はそう嬉しそうに言った。浅野もリュミエルも、圭一の手料理は大好きだ。

「お邪魔ー…」

と言って、浅野が入りダイニングを覗いた途端、あまりの驚きに玄関まで飛びずさった。

「?…浅野さん?どうしたんですか?」

圭一が驚いて、玄関まで追いかけてきた。何故かリュミエルまで浅野と同じように、玄関に背中をくっつけて固まっている。

「…なんで…ザリアベルがこんなところに…」

浅野が震えながら呟いた。リュミエルが声にならず首を振っている。

「ザリアベルさん、ご存じなんですか!そこでお会いしましてね。」

圭一が呑気にそう言った。

「そこでお会いしましてって、近所のおっさんとは違うんだぞ、圭一君…」

浅野が震えながら言った。

「…それも、シチューうまそうに食べてるし…」
「浅野さん達も一緒にどうぞ。いっぱい作ったんです。」
「…どうする?リュミエル…」
「…ここで逃げたら、向こうにへんに思われるんじゃないか?」

リュミエルの言葉に、浅野がうなずいた。

「そうだな…。入るか。」

浅野とリュミエルは覚悟を決めて、またダイニングに向かった。圭一が嬉しそうに後に続く。

「…お邪魔します…」

浅野がザリアベルに言った。ザリアベルはスプーンを持ち上げたまま答えずに、浅野とリュミエルを見た。

「…天使たちか。」

ザリアベルが言った。

「邪魔してるのはこっちだ。」

ザリアベルはそう言って、またスプーンを口に運んだ。