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かいごさぶらい
かいごさぶらい
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かいごさぶらい<上>続(3)

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「あーっ、それっ、あかん!、汚いやんかー」と、思わず私は声を挙げた。母は、ティシュで拭き取った便を両手で一生懸命包んでいたのだ。

「それ、うんち、やでぇー!」母を抱き起こしながら。

「なんやのん?こうして、おくらなあかんやんかっ!」便だらけで、くるまったティシュを持って、母が言う。

「分かった、わかった、手ぇー汚れるから、僕がするから、借してみぃ」慌てず、ゆっくりしてやるのが肝心だ。母の手にも、私の手にも同じものがつきました。




  「ウレしい~、してくれんのん?」母の笑顔、その(1)

2005/6/13(月) 午後 0:37
某月某日 認知症の進行を少しでも遅らせたい、と、願うのは、直接介護をされている方たち共通の願だろう。私が選んだのは、生活にリズムを持たせることと、会話だ。そして何度も何度も、四季の話題を会話の題材にすることだった。(医学的に効果があるかどうかは分かりませんので、念のため)。

「お袋ちゃん、見てみぃ、この、トラの尾(サンスベリア)、こんな大きなったで!」

「ほんまやな~、こないなったら、どうするん?」

「うん、分けてな、増やしたらえ~のんと違うか?」数年前に、姉が持ち込んできた、サンスベリア、当初は4~5本くらいで、高さも30センチほどであった。姉いわく「部屋の空気キレイにしてくれるんやて~」。それが、いまや、30本くらいに増え、高さも大きいものは、有に1メートルを超えるほどに成長した。

「そ~や、そうせんと、じゃまになるわ」と、母が言うほど成長したのだ。1年ほど前に、鉢の植え替えをした。最初の鉢が割れそうになったからだ。大きな鉢に植え替えた途端、この「トラの尾」はニョキニョキ、四方八方、伸びたい放題、伸びはじめた。

「だれがくれたん?」

「お姉ちゃんが持ってきてくれたんやで~」

「いつーぅ」

「う~ん、もう、だいぶ前や、大きなったやろー、春やな~、みんな元気になるわ!」

「もうハルか?、おおきいな~、どうするん?」

「そやからな~、二つに分けてな、お袋ちゃんの部屋に飾ったるわ!」

「ウレしい~、してくれるのん?」母は満面の笑みを浮かべて。

「やっぱり、にいちゃんかしこいな~、はよ、してな!」トラの尾を見上げながら、親子の会話がはずむのだ。





   「ふふ~ん、ばあー、もうおきてもよろしいか?」母の笑顔、その(2)

2005/6/14(火) 午後 0:50
某月某日 早朝6時半、目覚ましが鳴る寸前に起床する。体内時計が働いているのである。数分後に目覚ましがなる。何時ものことだ。音に敏感な母は、私の物音に直ぐに気付く。

「おか~さん、おか~さん」母が声をあげた。

「まだ、早いよ、お袋ちゃん、寝とってえ~よ」

「そうですか~」

「ご飯の用意できたら、起こしたるからな~」母の顔を覗き込んで。

「あいよーっ」母は何時も、徘徊の疲れが残るのか、8時前ごろまで、朝寝をする。私は、朝は猛烈に忙しい。洗顔、湯沸し、身支度、朝食、時には、洗濯と、母を起す前にこれらを手早くこなさなければならない。一段落したら、母の寝床を覗きに行く。

「ぷ~っ、ぷ~っ、、、、、、」と、入れ歯の無い口を、すぼめてふくらまして、本当に幸せそうないい寝顔だ。腰が痛いのか(母は2度圧迫骨折している)横向きに九の字になって寝ている。

「あぁ、にいちゃんやーっ!」と、母は私の気配に直ぐに気付く。

「うん、え~よ、青天やでー、え~天気やわ!」と母に言う。

「ふふ~ん、ばあー、もうおきてもよろしいか?」母が笑顔で答える。私が差し出した両手に、母も応じる。

「今日も一日、一生懸命生きよ~な!」と、語りかけながら母を抱き起すのだ。






   「わー、きてくれてたー、うれしいっー!」母の笑顔、その(3)

2005/6/15(水) 午後 0:42
某月某日 月曜日から土曜日まで、母は毎日デイへ行く。90うん歳だから、体調の波があるのは、いたしかたない。幸い、この何年か母は休んだことは一度もない。唄うのが大好きな母に、デイに行かせるきめ台詞がある。

「今日はな~カラオケ大会やから、歌、唄~て帰ってきたらえ~ねん!」と言うのだ。

「どんなウタや~、うとう~てみぃ」母の好きな童謡唱歌を2、3曲、私が口ずさむと。

「あーっ、それしってるわ!」と、連れて母も唄いだす。だいたい、これで、機嫌を良くして。

「ふん、それやったら、いかなあかんな~」となるのだ。

「学校(デイ施設のことを、母は学校と呼んでいる)のバスきたよ、行こーか!」

「あいよー」と、ご機嫌な様子だ。

「お早うよう御座います、よろしくお願いします」バスから、降りてくるヘルパーさんにご挨拶。

「00さん、行きましょか、今日は、元気そうやねー!」と、ヘルパーさん。

「おはようございます、コシがな~、イタいねん」と、母。

「ゆっくり、乗りましょうね!」すでに、数人の方が乗車している。

「はい、00さん、ここに乗りましょうか?」

「みなさん、おはようございます」と母がペコリと頭を下げて挨拶する。バスの扉が閉まりかけると、母が振り向き。

「にいちゃんもこんかいなー!、なにしてんのん!」と声を挙げる。

「うん、00さん、お兄ちゃんは後から、きはるからね~、先に行きましょうね!」と、ヘルパーさんが。最近は毎日こうだ。これで、母は納得し。

「ばいば~い!」と車窓から私に向かって手を振るのだ。

午後四時過ぎ、同じバスで母が帰ってくる。車窓から、私を見つけた母が手をふりながら。

「にいちゃんや、にいちゃんや、わーきてくれたーうれしいーっ!」満面の笑みをこぼす。

「お袋ちゃん、お帰りぃ!」と、私も自然に両手を広げる。バスの扉が開くと、母は手を叩いて、周りもはばからず、大はしゃぎ、私も思わず笑みをこぼす。





   「ふふ~ん、うたえたー、わたしよ~しってるやろー」母の笑顔、その(4)

2005/6/16(木) 午後 0:34
某月某日 母は歌が大好きだ。もっぱら、聞くほうではなく、自ら「唄う」ことが好きなのである。もちろん、知ってる歌でなければならない。食事は気の向くままだから、なかなかはかどらない。

「お袋ちゃん、ご飯もうちょっと食べな~」

「たべてるーっ!」

「ぜんぜん、減ってへんやんかー?」

「いま、これ、これたべたやんかー?」と、言いながらティシュを一枚ずつ取り出し初めている。

「ティシュの仕事な~、ご飯食べてからしたらえ~やん」母はティシュペーパーに夢中になる。箱から、一枚一枚取り出しては、丁寧に折り畳んで積み重ねていくのだ。

「ここに、いれなあかんから、さき、せなあかんやんか、それもわからんのんっ!」

「後でゆっくりしたほうが、え~と思うけどな~」

「せな!、あかんのっ!」と、私を睨む。この時ばかりは、母にとって、私は敵になるのである。

「そうか?ほんだら、それ済んだら、食べや~」敵では無いことを母にやんわり。