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ぼくは脱退します

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「ごめんなさい――今日のライブを持って、ぼく、朱ねこはType-circusを脱退します」
 ボクは流すまいと思っていた涙を流しながら、ライブを終えたばかりのメンバー四人に向かって告げた。
「脱退って……ちょっと待てよ! ボーカルのお前がいなくなったらどうすんだよ?」
「そうだそうだ! とりあえず理由を一から話してくれよ!」
 サブギターの2Heartとベースのpain+が交互に怒鳴るように聞いてきた。当たり前だ。脱退することは一ヶ月も前から決まっていたことだけど、メンバーのみんなには誰にも今この瞬間まで一切話していなかったのだ。
「まぁまぁ二人とも落ち着けよ。気持ちは分かるが、とりあえず場所を変えてゆっくり話し合おうぜ」
 ドラムのD.Cが額の汗を拭きながら二人を宥めた。2Heartは首を捻りながらエフェクターを仕舞い、pain+は重いため息を履きながら弦をクロスで拭き始めた。
「朱ねこ、お前もメイク落としてさっさと出る準備しろ」
「は、はい……」
 タオルを首に掛け、D.Cは荷物を持って先に外へ出てしまった。
「……」
 椅子に座りながら黙って聞いていたメインギターのKanonは、ぼくに一瞥もくれないまま、D.Cの後を追うように去っていった。
(Kanonはどう思ってくれたのかな……)
 うしろめたい気持ちのまま、バンドの女形であるぼくは洗面所でメイクを落とし、楽器を仕舞う二人の間を通って楽屋を後にした。

 ライブハウスから出ると、ほの暗い夜空にほやけた街灯が浮かんでいた。地下から上がってすぐのところにあるコンビニの前で、D.Cがタバコを吸っていた。その横でKanonはコートのポケットに手を突っ込んで、空を見上げながら白い息を吐いていた。
 ぼくも残っている二人が来る前に一本吸おうと思ったが、あいにく切らしていたので、店内に入って缶コーヒーとピアニッシモを買った。
「よし、全員揃ったし、さみぃからさっさと飯食いに行くか」
 コンビニを出ると既に二人が来ていたので、吸う暇もないまま移動することになった。
「ごめんね……」
 ぞろぞろと目的地へ進んでいく途中で、下を向きながら隣を黙って歩くKanonに向かって、ぼくはぼそりと言った。
「……いいよ」
 彼はぼくの口調に合わせているかのような声量で答えた。
「これで俺のやりたいようにやれるようになったから」
「え……」
 声量はそのままでもはっきりとした発音でそう言い捨て、彼は歩く速度を速めてギターを背負った背中をぼくに見せてしまった。
 ぼくは必死に喉を絞めて声を殺し、涙を冷たい地面に落としながら四人の後ろ姿について行った。
作品名:ぼくは脱退します 作家名:みこと