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こがみ ももか
こがみ ももか
novelistID. 2182
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この手は傷だらけ③

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それで、昌器の言わんとすることがだいたいわかった。彼が、常とは違って張りあいがなかった理由も丸ごと察する。
急激に、明本昌器という人がリアルな存在感を持って鋭介の隣に現れた。先生、ではない彼。生身の、決して強いわけではない大人が隣にいる。
なにかしてあげられたらいい。ふっと、一番簡単で、難しそうな欲求が首をもたげた。しかし鋭介には、このままここに留まるよりほかできることなど検討もつかなった。
「またこのパターンかみたいな。……他人に、いらないって、何度も烙印押されるとこう……くるよなあ。また必要だって言われるの、いつかわかんねえし」
不用意なことは言ってはいけないと思った。肯定するのも、安易に慰めるのもよくなさそうだった。彼の言うように、いつ、誰が必要としてくれるかなんてわからない。よく知りもしない自分が、気軽に大丈夫だと励まさないほうがいい。
――うわ、先生の手、傷だらけ。
昌器のほうを見るに見れずに、視線をさまよわせていて目に入ったのは膝の上に置かれた彼の手だった。しっかりした骨づきの白い手は冷たくて、切り傷やかすり傷だらけで痛々しい。場所から見るに自傷行為の痕ではなさそうだが、治りきらないところをさらに切ったりするらしく、ひどく乱暴に使われた手をしていた。
「白橋……?」
なんでこんなになったんだろう。
気を引かれるがままに、鋭介は昌器の手を取った。また、昌器が身体を跳ねさせた。構わず両手でそっと包み込み、手の甲を撫でてみる。傷痕のせいでところどころ凹凸のある皮膚は薄いらしく、血管が透けて見えている。この手の、肌の底に今までの彼の時間が沁みているのかと思うと、いても立ってもいられなくなった。どうしていいかもわからないまま、やっぱり自分にはなにもできないのだと痛感しながら、鋭介はその傷だらけの手を撫で続けた。
「……もう少し、ここにいてもいいですか」
昌器の手を撫でているうち、どうしてもそう尋ねてみたくなった。彼の望む意味ではないかもしれないが、少なくとも鋭介は彼のことが必要だった。だから同じように、自分のことも必要としてもらえれれば、嬉しいと思う。この手を握り返してくれたら、もっと気持ちが違うものに変わりそうな気さえした。
昌器の頭のてっぺんを見つめていると、やがて顔を上げた彼と目があった。なんともいえない、すがるような瞳をした昌器はゆっくり唇を開く。なにか言おうとして、躊躇して閉口して唇を噛み、それでも伝えようと口を開く。何度かそれを繰り返して、ようやく昌器が指に力を込めてきた。指と指が、じんわりと絡む。
「いくらでも」
ぽつりと、一言だけつぶやくとそれきり昌器は黙り込み、身体をもたせかけてきた。それだけ言うのにもきっと自分の想像する以上の勇気を要したのだろう。早く帰りたいのに、いい加減にしろよ。今日、そんなふうに彼が文句を言わなかった理由をぼんやりと理解し、恐る恐る肩に腕をまわしてみた。
細くはなかったが、どことなく頼りなげな彼は本当に、ただ一人の人なのだと思った。
先生ではない彼。その人のことを、自分がてとも愛しく感じはじめているのを、鋭介は手のひらから伝う体温から悟っていた。