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特異体質 【オリジナル】

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僕の住んでいる所では、工場やら廃棄された物が数多く存在している。
 僕らはそこで生まれて、今までだって生きている。

 ゴウン、ゴウン、工場で機械の動く音が聞こえる。なんだか怪物の呻き声にも聞こえて来るが、怪物が押し潰すのは人間ではなく機械だった。
 僕はここで働いてる。それと、付き合いの長い友人が二人も一緒だ。

 一週間前の話。一人の男が消えた。
「隣の部屋の正吉、また消えたんだってさ」
 卓郎がそういう、神妙な顔つきだったが、僕の頭は少しも動揺しなかった。
「消えるのはいつもの事じゃないか」
 何の変哲もない事だった。日常茶飯事、とも言える。
「そうだけどさ」
 またか、と卓郎は溜息を吐く。そういえば、正吉と釣りに行く約束をしていた、と言っていたなぁ。
「今度は一週間かな?」
 僕はのんびりと空を見上げた、正吉はきっとどこかでウロウロしてるだろう。
 正吉はそういう男だった。たぶん、それしか今は出来ないと思う。
 結局、正吉は一か月経っても帰って来なかった。
 その分、僕と卓郎に仕事が回ってくる。
 後でたっぷり奢ってもらおう、そう二人で考えていた。

 今日も作業が終わって、卓郎と合同で住んでいるアパートへと移動した。
 卓郎の部屋の隣、正吉の部屋はキチンと鍵がかかっている。
 僕を含め三人の部屋は、卓郎、正吉、僕の順番で並んでいた。
「そういえば、今日好きなドラマがあるんだよ」
 卓郎が言い出し難そうに、頬を掻いて言った。付き合いは長い方なので、大体事情はそれで理解出来た。
「最終回か、何かなの?」
 卓郎がこういう風に言うのは、大抵、特定の場面だった。
「あぁ、うん・・・まぁな」
 申し訳無さそうに、卓郎がそういう。
(どうしても見たいドラマなんだろうなぁ)
 別に今日は何ともない日なので、僕は卓郎を助ける事にした。
「良いよ、僕今日は泊るから」
「マジか?いや、悪いな」
 目を見開くも、卓郎は嬉しそうにそう言った。こういう時に理解の出来る友人はありがたいのは僕も分かっている。
「うぅん、大丈夫」
 僕はそう言って笑うと、卓郎の部屋に上がらせて貰った。

 卓郎の居間は少し汚い、畳の敷いてある部屋、部屋にあったちゃぶ台で缶ビールを二人分開けた。
 ドラマが始まった、僕は料理を並べて、じっと卓郎とドラマを交互に見ていた。
 ドラマの内容はどこにでもある恋愛小説だったが、その魅せ方が評価を受けて、今は大ブレイクとなっていた。(主演の女優は僕もファンである)
「俺さ、ラストシーンは知ってるんだよ。小説読んだから」
 卓郎がこちらを向いてそういう、少し不安げだ。
「そうなの?」
「あぁ、で、ボロ泣きしてさ。しばらく動けないから参ったぜー。お前か正吉に電話も出来ないし・・・お、着た」
 問題のラストシーンに入ったらしい。長い間、互いに会えなかった恋人同士が想いを伝えあうというシーンだ。
 そのシーンに入った時、ドンドン、と言う音がした。気になったが卓郎はドラマに釘付けなので、僕は立ち上がって音のする方へ行った。

「おーい、開けてくれ」
 間の入った声がドアの向こう側から聞こえる。
 僕はドアを開ける、誰もいない、僕が後ろに下がるとドアが自動的に閉まった。
「汚いなぁ、相変わらず」
 知らない人が見たら、たぶんポルターガイストだと勘違いされそうな現状だ。
 靴は浮いていて、綺麗に並べられていく光景なんて、気絶するかも。
「何やってるの、正吉」
 僕は居るのに居ない人物の名前を言うと、靴の一足が僕の目線くらいまで上がっては止まった。
「おぉ、久しぶりだな」
「一か月ぶり、服は?」
 たぶん、というか絶対この人全裸だろう。世界で一番エッチくない全裸だ。
「どうせ他の人から悲鳴が上がるんで脱いで着た」
 だろうなぁ、のんびりとした声で正吉が言う。かと言って靴を持った間々ウロウロする訳にも・・・いかないだろうなぁ。
「ちょっと待ってよ、服取って来るから、鍵は?」
「あぁ・・・開いてるから適当に取って着てくれ」
 なんて投げやりなんだ、そう思いつつも、服を取って来る事にした。
「あのさ、居間で卓郎がドラマ見てるから」
「あぁ、最終回の奴?」
「うん、よろしく」
「分かった」
 正吉も理解は早い方だ。僕は服を取って来るために部屋を出た。

 さて、帰って来ると脱げた服と、後、見えないけど一人居る。
「ほら、服」
「あぁ、ありがとな」
 もぞもぞと服が勝手に動いて、CMであるような人型にきっちり収まった。
「やっとビールが飲める」
 缶ビールが浮いて、斜めを向くと、ビールが空いてる服の穴に落ちるような形で飲まれてしまった。
 横目でその様子を見ては文句を言った。
「それ、僕と卓郎のなんだけど・・・そういえば、卓郎は?」
 文句を言いつつも、脱げた服は間違いなく卓郎の物だった。ちゃぶ台に予め置かれたティッシュが動いた。
「すまん、今出れない」
 ぐぐもって小さな声が聞こえた。ぐすっ、と鼻を啜る音が聞こえたので、やっぱり泣いてしまったらしい。
「大丈夫?服持って来ようか?」
「すまん、頼む」
 鼻声混じりで卓郎が返事を返してくれた。なんで今日は二人分の服持ってこなきゃいけないんだか。
 卓郎の服は、男の部屋にしては似つかわしくない人形の部屋にあった。
 適当に人形から服を取る。すぐさま戻らないとティッシュを巻いた間々じゃ不便だろうから早々に戻る事にした。

「やっぱドラマで見ても良いな!あのシーン!」
 ビールを飲みながら、興奮した様子で卓郎が語る。小さな体の割には、はっきりと聞こえる。
 人形のセットに使われているティーカップでビールを飲むなんて、親指姫でもしないけれどなぁ。でも彼は姫じゃないか。
「そんなに良かったなら、俺も見たかったなぁー」
 正吉も既に二缶目に突入したらしい、カシュッ、と蓋を開けては流し込む。
「よく言う、一か月どこ行ってたんだよ、お前」
 口を尖らせるように卓郎が正吉を見上げる。見えてないけど。
「バス代もタダだしなぁ、ちょっと旅行に」
「土産よこせよ」
「あ、僕も欲しい」
「分かってるって」
 正吉の笑った声が聞こえる。三人揃ったのは一カ月ぶりだったから、缶ビールを開けつつも話が進んでいった。

「透明人間なんだからさ、女湯覗き放題じゃないか?」
 卓郎がそんな事を言い出す。「うーん」と正吉は少し唸った。
「猥褻罪だし、あぁいうのはさ、バレるかバレないかのギリギリ感が良いんだよ」
「なんだよそれ」
「というか、君だって同じでしょうが、やってない?」
「やれるか、というかこの格好で出歩けねぇよ」
「なら俺だって同じだ」
 笑い声が大きくなって、僕も自然と笑みが零れる。
「よしよし、僕ちゃん、撫でて上げようか」
「え」
 透明人間の着ている服が近づいてる。この人、だいぶ酔っ払ってるようだ。
「あー、こいつ飲み過ぎたな」
「僕と卓郎の分まで飲んでたからねぇ、とりあえず止めて」
「いやだー、俺がこの一カ月どれだけ苦しんだと思ってるんだー」
 訳の分からない理屈を言いながら、くしゃ、と頭に触られる感覚がした。
 これはマズイ、逃げようと思って暴れるが、どこに手があるか分からない。