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ラベンダー
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走れキャトル!(4)~魔術師 浅野俊介 第0章~(完)

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「はい。僕の命と引き換えに早く授けてもらおうと思って…」
「…そんなことして明良君が喜ぶと思う?」
「はい!」
「!?」
「きっと赤ちゃんが産まれたら、喜んでくれます。」
「……」
「…そして…忘れてくれると思います…僕の事…」
「…君は忘れられたいの?」
「僕…迷惑ばかりかけてきたから…」
「あのね。圭一君。」

圭一は初めて名前を呼ばれて顔を上げた。

「明良君達が、そんな薄情な親だと思う?」
「!?…」
「ひどいこと言ったわよ、君。」
「…はい…」

圭一は怒られて下を向いた。

「…戻りなさい…明良君達のために。すぐには無理だけど、明良君の赤ちゃんの事は私が引き受けるから。」
「…真由さん…」
「懐かしい名前だわ。」

女性は微笑んだ。

「あ、それからキャトルだけど…」
「!?」

圭一は驚いて目を見張った。

「キャトル?」
「…ま、いっか。今、言っても忘れるだろうし。」

女性はそう言うと、

「じゃ、明良君よろしくね。」

と言い残し、姿が消えた。

「!!…真由さん…!」

圭一は急に頭に痛みが走り、頭を抱えてその場に座り込んだ。

……

「脈拍が…!」

看護婦が圭一の脈拍が強くなってきたことに気付き、集中治療室から飛び出した。
あわただしくなった治療室を見て、雄一達は何事かとガラスに寄った。

「!!…副社長!!圭一君が!」

明良は顔を上げない。

「副社長!!圭一君の意識が戻っています!…見て!」

それを聞いた明良が立ち上がり、ガラスの中を見た。
菜々子もマリエに支えられ、立ち上がった。

「圭一!!」

圭一が顔をしかめているのがわかった。
口の動きで、明良を呼んでいるのがわかる。

…圭一は一命を取り留めた。

……

圭一は、三途の川で明良の姉に会ったことは覚えていたが、どういう会話をしたのかほとんど覚えていなかった。
ただ、明良のために戻るように言われた事だけを覚えていた。

「…そうか…姉さんが…」

明良が圭一のベッドの横で微笑んだ。
だが、すぐに涙を堪えるような表情になった。

「圭一…お前、私たちの子どもの事、神様に頼みに行くって言っていたが…」
「!!…はい…。」
「私はお前がいればそれでいい。子どもができるに越したことはないが、それでお前がどこかに行ってしまうのなら…いらない。」
「!…」
「私より先に死なないでくれ。頼む…。」
「…父さん…」

涙を拭いながら言う父の言葉に、圭一も涙が溢れるのを感じた。
その時、ふと何かを思い出した。

「そういえば…」
「?…どうした?」
「そのことで…お姉さんに怒られたような気もします…」

圭一が必死に記憶を戻そうとしているが思い出せない。

「そうか…」

明良が涙を拭いながら、おかしそうに笑った。

……

1ヶ月後-

「キャトルー!」

圭一が玄関を開けながら言った。まだ仮退院だが、普通に生活する分には大丈夫と医者に許可をもらえたのだった。
玄関に座っていたキャトルが、圭一の胸に飛びついた。

「キャトル!」

圭一はキャトルに頬ずりした。

「…会いたかったよ…ずっと…」

キャトルも、圭一の手の中で鳴いた。

「…ちょっと大きくなったね。人間だといくつになるんだろうね。」

圭一はそう言いながら、靴を脱ぎ、玄関に上がった。
菜々子と明良が玄関に入って、微笑んで顔を見合わせた。

(終)

(最後までありがとうございました。この後の子猫キャトルの活躍は「魔術師 浅野俊介」をお読みください(^^))