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仁科 カンヂ
仁科 カンヂ
novelistID. 12248
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イデアの終焉

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朝霧   そんな顔しないで!!

尼丘   …………

朝霧   理解できない……分からないよ!! 尼丘君!! あんたが悩むなんて
     ……いつもの尼丘君だったら、悩むぐらいだったら死ねばいいじゃない
     かって言うじゃない。見てられないよ!!

尼丘   一遍に言わないでくれよ。

二人   …………

尼丘   朝、目が覚めて、1日が始まる。ご飯を食べて、テレビを見て、気が向
     いたら学校に行く。いつもの顔が並ぶ教室でいつもの場所。いつもの机
     につく。昼は給食を食べ、夕方帰る。同じことの繰り返し。大人になっ
     たら金儲けでもするのだろうか。お金が増えても紙切れを他人より沢山
     所持するだけ。それがどうした。何が楽しいのだ。趣味を持って、それ
     が上達して何が楽しい。世界が滅亡でもすれば楽しいことあるかもね。
     でも滅亡してくれない。面白くない……面白くない……いつまでこんな
     くだらないゲームをすればいいのだ。あと50年? 60年? このゲ
     ームをやめるにはそんな時間かかるのか?

東郷   理由がないってそういうことなんだね。

朝霧   分かってるって・・・分かってるから・・・・

   朝霧、尼丘にロープを投げる。尼丘、それを手に取る。

尼丘   ……うおーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!
     どうして死ねないんだよ!!!!!!
     ふざけるな!!!
     もう待てねえんだよ!!!動け!!動け!!動かないと死ねないんだよ
     何でだよ!!!!!!!

朝霧   私が手伝ってあげるから!!

   朝霧、尼丘の首にロープを巻く。

尼丘   う……う……

   暫く苦しむが、ゆっくり手がロープを握り、ほどいてしまう。

朝霧   どうして?

   尼丘、閉じていた目をゆっくり開き、手を見る。そして、朝霧の所に駆け寄
   って。

尼丘   朝霧君!! 僕はどうしたらいいんだ!

   朝霧、悲しい笑みを浮かべた後

朝霧   殺してあげるよ……私が殺してあげるよ。

   朝霧、包丁を手に取り、尼丘に振り下ろそうとする。

東郷   あーーーーー!!!!

   東郷、朝霧を突き飛ばす。朝霧の包丁、空振る。

東郷   尼丘君、あなた死にたくないんじゃ……

朝霧   言うな!!!

   朝霧、東郷に包丁を振り降ろし、東郷、それを受け止める。

東郷   死にたくないんでしょ? 生きたいんじゃない?

朝霧   言っちゃいけないんだよ!!!

東郷   死ぬか生きるかは尼丘君が決めることでしょ!!

   東郷、受け止めていた手を振り払う。

朝霧   もっと苦しめてしまうでしょ!! ひとときの感情で死ぬのを踏みとど
     まっても、尼丘君幸せになれないんだよ!! さっきの尼丘君の言葉聞
     いて気づかなかった?尼丘君にとって生きていることそのものが苦痛な
     の。不幸なの。死なせてあげて!!

尼丘   ……そうかもしれませんね、東郷先生。死にたくないと思っているよう
     に思います。自殺する前のワクワクは自殺することに胸弾ませていたの
     ではないようです。今生きていることが楽しかった。朝霧君や東郷先生
     と生活した時間が楽しかったのでしょう。もう少し、この楽しみを味わ
     いたいと思ったのでしょう。私にとって大きな変化かもしれませんね。
     でも、このドアの向こうは昨日と同じ風景。何も変わっていない。私は
     自殺したいのです。でも、死にたくない。
     死にたい……
     死にたくない……
     死にたい……
     死にたくない……
     死にたい……
     死にたくない……
     ものすごくつまらない、人生というゲームをもう何年も続けてきた。こ
     のクソゲーをやめる方法をやっと見つけたのに、その道を閉ざされた。
     朝霧君、これは君の意志なのか?僕が苦しむのを見て、絶望するのを見
     て、楽しんでいるのか? 君は、面白いことしかしないはず。

朝霧   違うよ!!! そんなつもりじゃ……

尼丘   嘘だ。君は尼丘君の幸せ、尼丘君の幸せと言う。他人の幸せを願う人間
     なんているはずない。僕は他人が何を考えようと、何をしようと関心が
     なかった。でも今は違う。憎いという言葉にぴったりの感情が僕の心の
     中を満たしている。

東郷   甘えるんじゃないよ! 自殺するのもしないのも貴方が決めることで
     しょ! 本当にしたければすればいいじゃない!! したくなければし
     ない。簡単なことでしょ? 私だってね、自殺しようとしたって、少し
     ぐらいの未練はあったよ。でも、その未練よりも死にたいという気持ち
     が強かったから死のうと思った。それだけのことじゃない!! 人のせ
     いにしないで!!

尼丘   甘えるな? その言葉聞き飽きましたよ。私が学校に来なかったら……
     死のうとしたら皆そう言う。決まって不幸な身の上でも頑張っている人
     たちを引き合いに出しながら。それがどうしたと言うのです。東郷先生
     あなたも私を邪魔するのですね。あなたはもうマトモジンではありませ
     んので、殺すことがあなたに対する罰にはなりませんね。ここから出て
     いってください。ここは私の家です。ここはあなたにとって社会から隔
     絶された楽園になっています。ここから出れば、現実をいやというほど
     つきつけられる。そして、周りのマトモジンたちはあなたに自殺させな
     いでしょう。もし自殺しても最新の医療で何度でも助けられます。永遠
     の苦しみを味わってください。朝霧君もね。

朝霧   嫌!!! 私出ていかない。出ていかないから!!!! 尼丘君を置い
     て出て行けな……

尼丘   それは嘘だね。家に帰りたくないだけだよ。僕の保険金を持って帰らず
     に帰ることなんて出来ないからね。だから帰れと言っているんだよ。家
     族の金儲けの道具として一生過ごしなよ。君の家族はきっと使い物にな
     らなくなるまで、君を手放さないね。そういう環境では自殺なんて到底
     無理。はははははははははっ、これはこれで楽しいね。憎しみという感
     情は、その対象を不幸にすることで楽しみを得ることができる……これ
     もこの世界のルールだったんだね。

朝霧   私はねえ、ここに来て本当に楽しかった。あんたは私のことなんて興味
     なかっただろうけど、私が思っていることを普通に聞いてくれた。普通
     に返してくれた。私の全てをさらけ出してもあんたは普通に受けてくれ
     た。私はあんたに恩があるんだよ。どうしてあんたのことを心配しちゃ
     いけないの? そんなに憎い?
作品名:イデアの終焉 作家名:仁科 カンヂ