イデアの終焉
があったんでしょ? 私に言いにくいだけなんでしょ? 何でも話聞く
よ。時間かかるかもしれないけど、あせらないで、ゆっくり解決法考え
よう。ね? 早まらないで。
尼丘 どうして大人はみんな死ぬのに理由を求めるのでしょうか? それがな
いと落ち着かないようですね。理由はないと言ったじゃないですか。
東郷 私には分からないよ!!
尼丘 じゃあ分かるように教えてあげましょうか?
朝霧 やめた方がいいよ。死ぬよ。
尼丘 そうですね。でも知りたいんでしょ?
朝霧 ははっ、命がけの議論する根性ないよ。この人には。
東郷 ……聞こうじゃないの。
朝霧 後悔するよきっと
朝霧、去る。
尼丘 東郷先生、あなたは何者ですか?
東郷 は?
尼丘 答えてください。
東郷 何考えてるの?
尼丘 答えてください。
東郷 あなたの担任です。
尼丘 先生、あなたは教師であることを自覚することで自分を保とうとしてい
らっしゃるのですね。
東郷 違うわ!
尼丘 そうですよね。教師としてのあなたの代わりは、沢山いるのですからね
それではもう一度聞きます。あなたは何者ですか?
東郷 ……私は大人よ。あなたと違って。
尼丘 先生、あなたは大人であることを自覚することで自分を保とうとしてい
らっしゃるのですね。
東郷 ……違う。
尼丘 そうですよね。大人としてのあなたの代わりは、沢山いるのですからね
それではもう一度聞きます。あなたは何者ですか?
東郷 …………女。
尼丘 先生、あなたは女であることを自覚することで自分を保とうとしていら
っしゃるのですね。
東郷 ………………違う。
尼丘 そうですよね。女としてのあなたの代わりは、沢山いるのですからね。
それではもう一度聞きます。あなたは何者ですか?
東郷 …………こう言って欲しいんでしょ。私は何の取り柄もないただの人間
です。これで気がすんだ?
尼丘 先生、あなたは人間であることを自覚することで自分を保とうとしてい
らっしゃるのですね。
東郷 …………
尼丘 そうですよね。人間としてのあなたの代わりは、沢山いるのですから。
それではもう一度聞きます。あなたは何者ですか?
東郷 もうやめて!!!!!
尼丘 先生、分かっていらっしゃるんでしょ? あなたの代わりは沢山いるん
ですよ。誰かに必要とされていると思い込んで、その為にあえて色んな
ものに縛られる。東郷先生、幸せですか?
東郷 …………
尼丘 幸せだと思いたくて、帳尻合わせをするように、楽しいことを無理矢理
にでも探そうとする。どうしてですか?
東郷 …………
尼丘 そんなことをせずとも、死ねばいいじゃないですか。無茶なことをしな
いで。生きていることそのものが不自然なんです。
東郷 …………
尼丘 本当は気づいているのに、知らないふりをしようとしている。無理をし
ないで終わりにしましょうよ。
東郷 …………
尼丘 本当は自由になりたいんでしょ。
東郷 …………
尼丘 本当は疲れていらっしゃるんでしょ。
東郷 …………
尼丘 無理をしないで終わりにしましょうよ。
東郷 …………
尼丘 本当は自由になりたいんでしょ。
東郷 …………
尼丘 本当は疲れているんでしょ。
東郷 …………やめて……
尼丘 無理をしないで終わりにしましょうよ。
東郷 やめて……やめて……
尼丘 本当は自由になりたいんでしょ。
東郷 やめてーーーーーーー!!!!!!!!!!!!
尼丘 本当は疲れているんでしょ。
東郷 いやーーーーー!!!!!あーーーーーーーーー!!!!
東郷、手で耳を塞ぎ、暴れる。
尼丘 無理をしないで終わりにしましょうよ。
東郷、凄い形相で尼丘を睨み、むなぐらを掴む。
尼丘 分かってくださったようですね。
尼丘、東郷の手を払いのけ、ナイフを渡す。
尼丘 あなたの自由を獲得するための切符です。
東郷、ナイフを取ろうとするが、尼丘、引っ込める。
東郷 どうして?
尼丘 私は先生に教えただけで、自殺のお手伝いをするとは言っていません。
私が考えていること、分かっていただけたでしょ。自殺をしたければ、
ご自身のお力でされてください。
東郷 そんな!!
朝霧登場。
朝霧 あれぇー。やっぱりマトモジンやめたんだぁ。
尼丘 朝霧君、何処に行っていたんだい?
朝霧 着替え取りに・・・東郷センセ!やっぱり後悔してるんでしょ。何も聞
かなければ良かったのにね。死神さん。あんたの後ろにいるよ。
東郷 嘘!!
朝霧 ものの例えだよ。今まであんたのこと嫌いだったけど、今のあんたはい
いね。私たちの仲間になったんだから。教師ってそこまでやるものかね
ぇ。他人の事でそこまで踏み込むんだぁ。すごいすごい。
東郷 …………
朝霧 ねえセンセ! 死ぬんでしょ? 一緒に楽しもうよ。みんな楽しむ間も
なく死んじゃうんだよ。ちょっと我慢すれば、楽しめるんだけどなあ。
その辺、先生は凄いね。まだ生きてるもん。ねえ先生。
東郷 ……そうお?
尼丘 朝霧君、先生が死んでいないのは、僕がナイフを渡さなかったからだよ。
朝霧 でも、今までの人ははそれをもぎりとって死んでいたでしょ。
尼丘 そうだね。でも、僕にはきっかけを失っただけに見えるんだけど。
朝霧 いいじゃん。そのきっかけをまた私たちと作ろうよ。
東郷 そうね。今の私じゃ家に帰っても死ねないな。
朝霧 じゃ決まり!尼丘君の洗礼を受けても生き残った唯一の人!宜しく!
東郷 尼丘君?さっきのあなたは何者ですかってやつ。今なら答えられるわ。
朝霧さんが言った言葉通り、尼丘君の言葉を聞いても生き残った人。で
どうかしら?
尼丘 なるほど。そうなるとあなたの代わりはいませんね。
東郷 ということで、私もここに住むわ。
朝霧 学校は?
東郷 本当は辞めたかったんだ。教師の仮面って学校を出てもはずせないんだ
よ。息苦しくて。なんかすっきりした。
朝霧 分かるような気がする。でもね、ここ、尼丘君の家なんだよ。尼丘君の
許可ってもんが必要なんじゃない?
尼丘 私は一向に構いませんよ。私の邪魔をされなければの話ですが。
東郷 しないから安心して。
尼丘 分かりました。それではごゆっくり。
尼丘、いきなり寝そべる。