おつきさまほしい
朝日が差し込んできて、目が覚める。泣き疲れて、いつの間にか眠ってしまったらしい。
今日は、亜矢のお通夜だ。
太陽は眩しく光を放ち、月は見えない。その事実がどうしようもなく悲しかったけれど、涙はもう枯れてしまったのか、出てこなかった。
月なんて、手に入らない。手を伸ばしても、その距離を思い知るだけ。
亜矢は、私にそう言いたかったんだろうか。
もう二度と触れることすらない私たちの正確な距離を、最後に伝えたかったんだろうか。
おつきさまほしい。
亜矢の言葉がよみがえる。
私は、別にいらない。
それに答える私の言葉が同時によみがえった。そうだ、私はそう言ったんだ。
思いだした。亜矢が言ったことへの、返事を。
「おつきさまほしい」
「私は、べつにいらない」
そう、こう言ったんだ。
「一緒に見上げてくれる人がいればいい」
亜矢は、最後に願いを聞き届けてくれたんだ。
そう知って、枯れたとばかり思っていた涙が、また頬を伝っていくのがわかった。
一緒に見上げた月を、私は、きっと忘れない。
亜矢はいなくなった。綺麗な月を、最後に私の中に残して。