妄想
Scene1
その日、帰宅して届いた郵便物をチェックしていると、その中にかつての恋人の名前を見つけた。
「結婚しました」と印刷された文字の下には幸せそうな笑顔の2人。
それ以外には何も書かれていない。
元恋人である以前に高校の友人だったからといって、何もわざわざ私のところにまでこんなものを送ってこなくたっていいものを。
とっくに忘れたはずのあの頃の想いがよみがえりそうになり、慌ててそのはがきを他の郵便物と一緒に机に放った。
着ていたものを脱ぎ捨て、シャワーを浴び、冷蔵庫の中から冷えたビールを取り出しグビリとのどに放り込むと今の恋人の声が聞きたくなった。
突然の夜中の電話に迷惑そうな声の恋人だったが、何も聞かず私の話に付き合ってくれた。
この人のこういうところに居心地の良さを感じる。
うん。私は今、幸せだ。
あまり長くならないうちに電話を切ると、机の上にあるはがきに目をやる。
ウェディングドレスに身を包んだ昔の想い人に、「幸せになれよ」と声を掛けた。