ひまつ部①
明らかにゲームに今気がつきましたと言わんばかりのロリ。そしてめずらしく噛む春樹。お前も忘れてたんだな。
「わたしはおにいちゃんといられるならなんでもおっけーだよっ♪」
「僕もアニキの武勇伝がみられるなら!」
陽向の問題発言は軽く受け流し、俺はお皿に盛られたサラダにフォークを伸ばす。
「ってぇ、うぉぉぉぉいっ!」
「「「ええええええええっ」」」
悶絶しそうな悲鳴とも似た叫び声が食堂を一瞬で満たす。
「な、ななた… くん?」
陽向がわなわなと肩を震わせながらお皿のウインナーを突きさす。何度も何度も。
「ななた、どうしたの急に! 何か悪いものでも食べたの!」
ティアが珍しく他人を心配する。ほほぅ、コイツも他人の心配ができるんだな。
「別に何でもないですよ。ただ、僕もアニキみたいに男らしく振舞いたいと思ったわけです! 一人前の男になりたいですっ」
「ななっ」
瞳をキラキラと輝かせながら俺の右腕をギュッとつかんでくるななた。一体何がどうなってんだ。
「蒼空ェ…」
鬼の形相とはまさにこのことか。今まで見たこともないこともない様な険しい表情のティアが真っ直ぐこっちを見つめる。どう考えても俺は不可抗力だろう、と言い逃れしたいところだがなかなかそうもいかない雰囲気である。
「な、なぁティア。ここはちょっと冷静になろうぜ。俺に怒りを向けたところで何も変わらない。そう、憎しみは何も生まないんだよ!」
よっしゃぁ、決まった! といわんばかりの決めセリフなつもりだったが、もちろんティアに通用するはずもなく俺は彼女の攻撃スキルをたっぷりと堪能することとなった。
例えゲーム内でも結構痛みもあるんだぜ。もうちょい手加減してくれよ、という俺のささやかな願いは伝わることはなかった。
放課後、ひまつ部にて。
「ねぇ、何か面白いことないの!」
今日も相変わらずネタを求めイライラしているティア。そのイライラの餌食になるのは基本俺ということを是非とも皆に伝えておこう。
結局あのゲーム体験はすぐに中止となった。朝食中にティアが宿屋ごと攻撃スキルで吹き飛ばしてしまいクエストどころではなくなってしまった、というのが大きな点。
もうひとつはゲームはやはりリアルすぎるよりコントローラーで手軽に遊びたい、というものだった。
あと、移動が面倒だとかモンスターが気持ち悪いとか。開発のコンセプトを真っ向から否定する感想を残し俺たちは帰宅したというわけだ。
あの出来事で大きく何かが変わるわけではなかった。
俺に対するななたの反応が僅かに変化した、という程度のものだろうか。蒼空おにいちゃんからアニキと呼ばれるようになったのは悦ぶべきことなのだろうか。どの部分を見て俺をアニキと慕うようになったのか。これまたひまつ部七不思議のひとつに登録できそうなものが登場した気分だった。
「蒼空ー! ちょっとはアンタも面白いこと考えなさいよ! アタシを楽しませろ!」
「へいへい」
今日のティアは不満を爆発させているように見えて機嫌がいい。瞳を丸くさせニコニコと愛想を振りまく彼女は残念なことに見事な美少女だった。笑顔で楽しませろ! と叫ぶ時は大抵機嫌がいいのである。
兎にも角にも、早く誰か来てくれ。部室でティアと二人きりは疲れるわ。