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ひまつ部①

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過去に一度だけ置いて帰ったら物凄く泣かれ、怒られたことはまだ記憶に新しい。
俺は放課後の教室から見える空を見ることが何気に好きだったりする。
特に夕陽を眺めていると時間を忘れてしまいそうになる。
夕暮れまでぼーっとしていたい気持ちを押し込め、俺は鞄を手に取り教室を出た。

廊下を歩き始めてすぐに俺はある異変に気がついた。
いや、気が付くべきではなかったのだが。
校舎1階の多目的ルームで一人の少女が何かをしているのを見つけてしまった。
その姿はあまりにも滑稽だったため、俺は不覚にも足を止めてしまった。
その少女は制服の上から黒いマントを羽織り、よくわからない棒を振り回し床にはチョークで丸い円をした模様を書いている。

「さぁ、魔王ゴルベリオスよ! アタシの魔力を喰らい世界に混沌と破壊を!」
耳を塞ぎたくなるようなセリフを叫んだかと思うと、もう目をつむりたい世界へ突入した。
彼女は自らの口でしゅばばばば! だの、ゴゴゴゴゴだの擬音をわめき散らし何かの儀式を行っているようだ。
その姿はあまりにも痛々しかった。

「くっ… 何が足りない! アタシの魔力だけでは不服だというのか!」
物凄くツッコミたい気持ちを抑え、俺はその場から立ち去ろうとした瞬間――

彼女と視線が合ってしまった。

「…!」
あ! という表情をするとともに、満面の笑みで俺の元へ駆け寄る彼女。
と思いきや、腕を強引に掴まれ俺は多目的ルームへ引きづり込まれた。

「な、何すんだよいきなり!」
「ウフフ… アンタ見たわね… この魔王復活の儀式を見たわね!」
「見る見ない関係なく、校舎入り口傍のこの部屋で窓全開でやってれば嫌でも目に付くだろーが!」
「――!」
一瞬物凄く衝撃が走ったような表情をする彼女。
なんだよ、気がついてなかったのかよ。

「ア、アタシとしたことが何たる不覚… しかし、今はもうどうでも良いことだ。なんせ生贄が手に入ったのだから」
「は?」
まずい、この女完全にイカれてる。まさか陽向の言ってたわけわからんことが現実に…
って、そんなバカな。

「さぁ、名もなき無様な男よ。その身体を持って魔王ゴルベリオスの血肉となるがいい!」
妖艶に光る彼女の瞳に妖しくつり上がった口元。そしてゆっくりと俺の元へ近づいてくる。

「いや、ちょっと待て」
だが俺も黙っちゃいられない。そもそもなんだよ魔王復活って。コイツ本気で頭ヤバイんじゃないだろうか。

「なぁ、そもそもお前は何をしてるんだよ。目的は何だ?」
とりあえず彼女の行動を少しでも制止しないと面倒なことに巻き込まれそうだ。

「何って、はぁ? アンタ見てわかんないの? さっきも言った通り魔王復活の儀式よ。面白そうでしょ?」
「じゃぁ逆に問うぜ。魔王ってなんだよ。存在すんのかよ」
鳩が豆鉄砲喰らったかのようにキョトンとする彼女。かと思えばすぐに表情は戻り

「ククク… 何を言うか。アタシが昨日プレイしたフォイナルフォントジィによるとクリスタルの力が弱まり封印されていた魔王が復活する、とあったわ。これはチャンスなのよ!」
「…」
あぁ、頭痛い。そして、俺をこの場から解放してくれ。
コイツの頭の中はどうなっている。とてもじゃないが理解できん。

「あのなぁ、それはゲームの話だろ!」
「んん?」
本日2回目の鳩が豆鉄砲(以下略
ようやく会話が通じるようになったというか、俺と彼女の間にあった大きな隔たりが氷のように溶けて言った。
何とか説明できる部分まで話ができたので説明しよう。

彼女はティア・シード。残念ながら俺と同じ高等部2年。
最近退屈だったので、流行っていると噂を聞いて購入したフォイナルフォントジィというRPGゲームに衝撃を受けたそうだ。
始めのオープニングムービーで魔王が復活することを知った彼女は、その魔王をなんとか手懐けようと考え復活の儀式を考えたそうだ。
ちなみに復活の儀式はインターネットの某巨大掲示板3チャンネルからの情報らしい。
とりあえずその話は全てガセであること、ゲームはゲームであることを伝えた俺。
しかし、返ってきた言葉はなんとも卑劣なものだった。

「はぁ? 現実と空想の境目がわからないわけないでしょう? アンタバカじゃないの? 魔王なんているわけないじゃない、そんなの分かってるわよ。アタシはただ暇つぶしをしていただけ。暇なのよ最近。アンタ見てると余計暇に思えてくるわ」
「だから最初から言ってるだろうが! 暇ならなんか部活でもやりゃぁいいじゃねーか」
いつの間にか俺が痛い子呼ばわりされているのだ。
そして暇を俺の所為にし始めるという。コイツ、一体何なんだ。

「部活なんて面白く… 部活…」
険しかった表情が一変して何かを思いついたかのように変貌する。満面の笑みへ。

「そうよ! 部活よ! アタシ、どうして思いつかなかったのかしら!」
羽織っていた黒マントを脱ぎすて、ティアは窓辺から夕陽を眺める。
そして振り向き様に彼女は俺に向かって

「――アンタ、今日からうちの部に入りなさい!」

これが冒頭で語った今日の経緯である。

作品名:ひまつ部① 作家名:天宮環