ラビリンスで待ってて
Episode.3
それから先はもう歯止めが利かなかった。
あたしは圭介のキスに夢中になり、二人きりになる度に彼に求めた。
彼の名誉の為に言っておくが、彼から誘ってきたことは一度もない。
求めるのは常にあたしで、それは今も変っていない。
やっぱり彼のほうが兄の自覚があるんだろう。
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彼がまだ大学生でうちで一緒に住んでた時。
両親が床についた後、あたしは圭介の部屋にそっと忍び込む。
大体、圭介はTシャツにトランクスのままギターを弾いているか、パソコンで論文書いてるか、ネットで遊んでいるか、マンガ読んでるかだった。
大学生って暇なんだ。
あたしは音を立てないように背中を向けてギターを弾いてる圭介に後ろから巻きつく。
それがいつもの合図だった。
あたしは胸を彼の背中にぴったり押し付けて、耳たぶを噛む。
「・・・ねえ、圭介・・・。」
そんな時、彼は嬉しいような悲しいような、困ったような、あの不思議な笑みを浮かべる。
あたしはギターを取り上げ、彼の膝に馬乗りになると、自分から唇を求めに行く。
「・・・お兄ちゃんて言えよ。玲。」
あたしのキスを受け止めながら、優しく言うのがあたしにはせつない。
それを言わすことで、あたしに理性をもたせようとしてるのはみえみえだった。
あたしは少しムっとして彼の手を取って自分のシャツの中に誘導する。
最初は戸惑っていた彼の手が、やがて意志を持って動き出す。
あたしはもう片方の手を彼のトランクスの中に突っ込む。
途端、圭介の息遣いが荒くなる。
彼の色素の薄い瞳が熱っぽく潤んでくる。
「・・・玲・・。」
圭介は訴えるような声であたしの名を呼んだ。
こうなったらあたしの勝ちだ。
「なに?お兄ちゃん」
嬉しくなってあたしは意地悪な笑みを浮かべる。
はは・・・って圭介は笑って降参する。
「お兄ちゃんて呼ぶなよ。萎えるから。」
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それから今まであたし達はどんどんエスカレートしていった。
が、最後の一線だけは圭介は越えてくれない。
お互いに満足するまでなんでもやるんだけど、まだひとつになったことは無いのだ。
圭介の理性が若干残っている証拠だ。
ここまで何でもやってたら今更・・・なんだけど、圭介はそこだけは越えたくないらしい。
だから逆に最後の行為以外は何でもやってみた。
不思議なことにリミットがつけられると、人はより燃えるらしい。
禁忌を犯しているという後ろめたさと、罪悪感、誰にも話せないという連帯感は、二人の絆を更に強めることになった。
-全ての発端-
現在に至るまで続くこのドロ沼は、あの日のキスから始まったのだった。
あの時の圭介のキスがつまんなかったら、今こういう関係にはならなかっただろう。
だから、あたしはいつも思う。
「圭介は今までずっと男子校だったのに、どうしてキスが上手いの?」
「・・・・今、オレが付き合った女の話聞きたい?」
圭介はあたしの口をキスで塞いだ。
聞いても何も感じなかっただろう。
あたしには血の繋がりという、どんな女にも負けない切り札があるのだから。
あたしは妹として、兄を愛する権利を神様から与えられてるんだもの。
作品名:ラビリンスで待ってて 作家名:雪猫