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さかさまになったゆきだるま

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しかし、ゆきだるまさんにはどうしようもありません。

じたばたと身体を動かしますが、やはり自力で元に戻るのは難しそうです。

だんだんと小さくなっていく身体を見ながら、ゆきだるまさんは泣きました。

「どうしよう。どうしよう……」

「お待たせ」

そんなゆきだるまさんの前に現れたのは北風さんでした。

「北風さん!」

「おっと、少し遅れちゃったかな? 思ったよりも小さくなっちゃって」

北風さんは昨日よりもだいぶ小さくなったゆきだるまさんを見ながらそう言います。

「助けて! 助けて、北風さん! 僕、溶けちゃうよ!! だめなんだ、まだ溶けちゃだめなんだ!!」

「落ち着いて、ゆきだるまさん。僕は君を助けるためにずっと待っていたんだから」

「え?」

「これだけ小さければ、僕の力で大丈夫だよ」

そう言って北風さんは昨日と同じように大きく息を吸い込みました。

そして、力いっぱい吐き出します。

強くて、そして冷たい風はゆきだるまさんに当たります。

「あ!」

そのときです。

昨日はびくともしなかったゆきだるまさんの身体がゆっくりとよこに倒れ、そのまま勢いよく立ち上がりました。

ゆきだるまさんはとても驚いたようでしたが、やがて自分がちゃんと元に戻っていることに気が付いて大きな声を上げました。

「やった! やったよ北風さん! ありがとう!!」

「……ふぅ。うまくいって良かった」

「ありがとう、ありがとう、北風さん」

ゆきだるまさんは何度も何度もお礼を言います。

「いやいや。それにしても、昨日はしていたはずのマフラーと手袋はどうしたんだい?」

「え? ん~、あげちゃった」

「……ふ~ん。なるほどね」

北風さんは愉快そうに笑うと、ゆきだるまさんの顔をなでて行きます。

「北風さん!?」

「どうやら僕の出番はここまでみたいだ。それじゃあね」

そう言って立ち去っていく北風さんを見ながら、ゆきだるまさんはもう一度声を張り上げました。

「ありがとう!」

北風さんが見えなくなった後、女の子がとことことやってきました。

首にはゆきだるまさんのマフラーをしており、ゆきだるまさんの手袋をしている手には紙袋を持っています。

「あ、戻ったの!?」

「うん。これでもう溶けちゃう心配も無いよ」

「良かった!! ……でも、なんだか小さくなっちゃったね?」

小さくなったゆきだるまさんは、女の子と同じくらいの背の高さになりました。

「しょうがないよ」

けれど、元に戻れたのですから、それに不満を漏らしたりはしません。

「……う~ん。でも、なんだか丁度良いかも」

「そう?」

女の子はなんだかとても嬉しそうに笑いながら、紙袋の中から何かを取り出しました。

「それ……」

「うん。あげる」

それは昨日北風さんに飛ばされた女の子のマフラーでした。

女の子は優しくそれをゆきだるまさんの首に巻いていきます。

「でも、これは君のじゃないの?」

「良いの。私にはゆきだるまさんがくれたのがあるから」

女の子は笑いながら、また紙袋に手を入れます。

そして、そこから買ったばかりの手袋を取り出しました。

「それは?」

「これ? これは、昨日お家に帰ったら、お母さんが買ってきてくれていたの。また急に寒くなるかもしれないからって」

女の子はその手袋をゆきだるまさんにはめていきます。

「だったら、それは君のじゃないか。僕がもらうわけにはいかないよ」

「良いの。私にはゆきだるまさんがくれたのがあるから」

「でも!」

「良いの。これは、私からお友だちへのプレゼント」

「…………友だち?」

「うん!」

ずっと家の中で暮らしていたゆきだるまさんは、友だちというものをよく知りませんでした。

けれど、首に巻かれたマフラーと新しい手袋。

そして、目の前で微笑む女の子を見て、ゆきだるまさんは心のどこかが温かくなるのを感じました。

「友だち……」

「うん、友だち」

ゆきだるまさんの心はとても温かく、このまま溶けてしまうのではないかと思うほどでした。

けれど、ゆきだるまさんはそれでも構わないと思いました。

この温かさで溶けてしまうのは、なんだかとても幸せなことの気がしたのです。



了。