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被虐的サディスティック

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第一章「陰湿」



 ※

 私は千佳子ちゃんにいじめられることが、何よりも幸せだった。

 学校が終わってからしばらく経ち、周りに生徒がいなくなったあたりで私は千佳子ちゃんに声を掛ける。彼女はまたかと言うようにムッとした顔のまま、私の腕を無理やり引っ張って屋上へと連れて行き、愛の仕打ちを施してくれる。
 最初の頃は彼女も戸惑ったり、わざと力を抜いたりして私に気を使ってくれていたが、今となっては手加減なんて言葉も忘れたかのように暴行する。
 私の腕を鷲掴みにしていた腕を離し、その直後にもう片方の腕で思い切り肩を殴り、くるりとバレリーナのように華麗に回ってローキックを腹部に当てる。そのまま私の体は壁に打ち付けられて、床に倒れこむ。彼女はさらに私の長い髪の毛をぐいと掴んで体を無理やり起こし、反対の腕でさらに腹部を集中的に攻める。最近はこのパターンから始まることが多い。
 彼女は柔道や空手などの武術はやったことがないらしく、殴るか蹴るかのどちらかだけしか与えてくれない。あとは言葉で罵るだけだ。
 気持ち悪い、お前なんて消えろ、死んでしまえ、等と非難しながら、ひたすら暴力を続ける。
 普通の人ならこんなことをされて耐えられるわけがない。私だって千佳子ちゃん以外の人にこんな目にあったら、ひどいトラウマになってしまうだろう。
 相手が千佳子ちゃんだから快感であり、心地良いのだ。
 私は極度の被虐趣味者(マゾヒスト)である。だからといって誰にでもいじめられたいのかというと、そうではない。私は男性よりも同性である女性に暴力を受けたい。小学生の頃、私は父親に暴力を振るわれたことがある。きっとそれが理由なのだろう。だから決して同性愛者(レズビアン)というわけではない。
 千佳子ちゃんに暴行されることが私にとっての最高の愛情であり、性行のようなものである。むしろそんなことをするよりも、遙かに幸せかもしれない。殴られた時の痛みが、蹴られたときの衝撃が、罵倒している時の彼女の睨みつける細い目が、最高の奉仕なのだ。

 彼女は少しだけ普通の生徒と違った。彼女はこの世の何もかもに飽きてしまったのかというぐらい、いつも不機嫌な顔をしている。釣り上がった大きな瞳に、小さな鼻、淡いピンク色の唇は、常にひん曲がっている。性格も男まさりの彼女は、異性よりも同性に人気があるらしい。
 
 「上原 千佳子さん」
 「なによ?」
 彼女は、相変わらずいらいらとしながら、めんどくさそうに顔を上げた。

 「私のことを……いじめて欲しいの」
 「……は?」
 戸惑うのも無理はない。いきなり屋上に呼び出して口から出た言葉がそんな内容だったら、誰だって混乱するだろう。
 それでも彼女は、お願いした当日から暴力を振るってくれたのだ。多少戸惑う様子もあったが、終わる間際に腹部に入れてくれたパンチは、彼女の腕力を手加減なく使われたことが感じられた。
 それから彼女の暴行は毎日のように続いた。身体のあちこちがじんじんと響く痛みが、彼女のマーキングのように感じられて、自分が千佳子ちゃんに認められたような気がした。

 だけど夏休みが開けた日から、彼女は学校から姿を消してしまった。
 
作品名:被虐的サディスティック 作家名:みこと