BBB(Beast between books)
<章=第一章 仕事と廓清委員会>
魔法、今の世界にはそれが存在する、だが、魔法で何が出来るわけでもなく、ただただそれがあるという漠然とした事実だけが残った。
しかし、六十年前、研究の過程で科学者たちが偶然の発見、世界を揺るがす大発見をした。
科学と魔法の混合実験の途中、偶然の産物が現れた。それは、表紙背表紙裏表紙まで、一色の色に塗りつぶされた本と、空想上の生き物が描かれた栞だ。その本と栞、科学者達は本を手に取り読んで見るものの、中には科学者でさえ目が痛くなるような複雑怪奇な魔法陣が無数に埋め尽くされているだけであった。
この実験は失敗か、科学者たちはそれと一緒に出来た栞をその本に挟むと、閉じた。
誰もが驚くべき発見をする際、それは偶然、そう、今回もそんな偶然が重なっただけに過ぎない、それは本にたまたま付属されて出来た栞を、挟んだこと、だ。
「お父さん、お帰り!」
「おお、幸田、こんな遅くまで起きていたのか?」
「うんっ! 今日はお父さんの誕生日でしょ? 寝ないで待ってたんだ!」
「そうかそうか、それは嬉しいな、じゃあ、そんな幸田にお父さんから一つプレゼントをあげよう」
「? 今日はお父さんの誕生日でしょ? 僕にプレゼントくれるの?」
「ああ、幸田が大きくなったら、必ず役に立つものだ・・・これだよ」
「真っ黒な・・・本? 焦げちゃったの?」
「ハハハ、幸田は面白いことを言うな、これはその時がくるまで大切に、絶対に誰にも言わないで取っておきなさい、勿論お母さんにも、いいね?」
「お母さんにも? じゃあ、じゃあ! 僕とお父さんの男の約束?」
「ああ、約束だ、やくそく」
「うんっ!」
「お母さん? 何で泣いてるの?」
「幸田? 幸田っ!」
「お、お母さん苦しいよ」
「幸田、あなたは私が絶対に守るわ、絶対に」
「離してよお母さん、僕潰れちゃうよ」
『引き続き、捜索を続けています、繰り返します、魔法科学開発チームが研究していた栞獣の実験最中、大きな爆発事故が起こった模様です、周囲には非難警告が出されています、尚、生存が不明な人物は、耀政治さんと・・・』
♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦
始まりはいつもそう、なんて事のない普通の日常、それが変わるきっかけなんて、その辺に転がる石ころのように、視界に入っても意識のしていないところで過ぎ去って行くものなのだろう。
俺? それとも僕? それとも私(わたくし)か? いや、わしでも良いけど・・・まあ、自分が自分のことを俺って呼ぶから俺でいいや、いや、それともおれ、のほうが柔らかい感じがするから・・・。
ピピピッ!
そんなくだらないことを高いビルの屋上に寝転がり、夜空にきらめく星空・・・なんて見えない、ただただ真っ暗な漆黒の闇夜を眺めて考えていたときだ、俺のポケットに入っている携帯が、詰まらない一定の音量を流し続ける、取り出して携帯の画面を見ると、名前が光っていた『東奈美晴(あずなみはる)』第十六都市支部長、の名前だ。
「もしもし、東奈さんですか?」
『ええ、所定の位置にはもう着いたみたいね、悪いんだけど』
「わかってます、俺、そのためにこの委員会に入ったんですから・・・場所はどこです?」
『第十六都市の郊外、廃墟ビルの近郊よ、あまり時間をかけると人の気配を察知して市街に現れることも考えられる、よろしく頼むわよ』
「了解」
俺は携帯の通話を切ると、ポケットにしまう。
「さあ、退屈は終わりだ」
俺、ああ、名前を名乗るのはまだだったな、俺、耀幸田(ひかりこうた)はビル、約九十五階建てのビルの屋上から、元気良く飛び出して行ったのだった。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦
さてと、と俺は大きく伸びをする、今は夜中の二時、すごく眠いのだが生憎仕事だ、断るわけにもいかない、まあ、他にも仕事を頼める奴らはいるんだろうが、俺がたまたま起きていたということだろう、不幸つったら不幸だけど、退屈しのぎにはなるからまあいい。
俺は足音をなるべく立てないように注意しながら、かつ周りを警戒し、歩いている。
第十六都市の郊外、主にホームレスがたむろっているのだが、敵が来たと通報でもしたのだろう、あたりは妙な重苦しい閑散とした雰囲気が漂う。
暫く郊外をぶらぶらと歩きながら、俺は辺りを見回した、郊外の途中で大きく空間の開けられた倉庫群が姿を現す、等間隔に並んだ大きな倉庫、シャッターは下ろされ、誰かが潜んでいる気配も無い、ここなら、別に暴れてもたいしたことないだろう、俺は急がずそこへ向かうと。俺は振り返った。
「さーって仕事の時間だ、出て来いよ、さっきから俺の喉もとに齧り付こうと潜んでるんだろ?」
返答は無い、油断させようとしているのか? それとも怖気づいたか、後者は困る。探すのが面倒だから、前者のほうがまだ良い。
と俺がそう思ったときだ、背後から恐ろしい唸り声と共に、獣の独特の臭いが俺の鼻を突いた、咄嗟に俺は横へと飛ぶとその場所へと目を移す。
人の姿とは遠くかけ離れた元人が、赤く光る鋭い眼光で俺を睨んだ、口は大きくせり出し、大きな口からは鋭い牙が月明かりと共に鋭く光る。体からは狼のような灰色の毛皮が伸びている。
今俺の目の前に立ちふさがる、人より身長が二倍近くデカイ元人、いや、正確には名前がある、咎人(とがびと)だ。
日本、いや世界といったほうが正しいかな、この世界は今、結構危機だったりするんだ。
十三年前、俺がまだ五の時だ、世界各国にある魔法科学開発チームの栞獣実験を同時発動した際、世界で同時刻、実験場で大きな爆発事故が起こり、そのため奇獣と言う厄介な物が、数を数えるのも馬鹿馬鹿しいほど飛び出してしまった、奇獣は余り長時間空気中に漂って入られない、奴らが生きるためには人の欲望や渇望、望み。そういったどす黒い、誰にでも持っているものを食うことで生き永らえることが出来る、そのため奇獣は人に寄生。そして寄生された人間は、もう人としての生活を放棄せざるを得ない。
奇獣に寄生された人間は咎人となり、他の人間を襲うようになる、まるで、何処かのゲームみたいに。
今回俺の目の前に立ちふさがる咎人、タイプはフェンリル、知ってるか? グレイプニルの縄を食いちぎって神、オーディンを喰っちまった北米神話最大の怪物、まあ、人に取り憑いた際にスケールは大分小さくは成っているものの、元は口を開ければ下あごは大地に、上あごは天にも届く大きさ、神話っつーのはスケールが何でも兎に角でかいんだよなぁ。
「キサマ、ナゼイルトワカッタ? グゥゥゥ! ケハイハケシタハズダガ?」
咎人(タイプ・フェンリル)は唸り声を上げて俺を睨む、巨体から発せられる殺気にも似たその威圧感は、戦闘に慣れている俺も少し参る。
「あー、怒らせちまったか? いや別に気配どうのこうのじゃあないさ、人気がない郊外の中俺だけ歩き回ったら流石に来るだろうと踏んでな、適当にそれらしく格好つけて言ってみただけ? 納得したか?」
「ナルホドナ、マンマトワレラハハメラレタトイウコトカ・・・」
魔法、今の世界にはそれが存在する、だが、魔法で何が出来るわけでもなく、ただただそれがあるという漠然とした事実だけが残った。
しかし、六十年前、研究の過程で科学者たちが偶然の発見、世界を揺るがす大発見をした。
科学と魔法の混合実験の途中、偶然の産物が現れた。それは、表紙背表紙裏表紙まで、一色の色に塗りつぶされた本と、空想上の生き物が描かれた栞だ。その本と栞、科学者達は本を手に取り読んで見るものの、中には科学者でさえ目が痛くなるような複雑怪奇な魔法陣が無数に埋め尽くされているだけであった。
この実験は失敗か、科学者たちはそれと一緒に出来た栞をその本に挟むと、閉じた。
誰もが驚くべき発見をする際、それは偶然、そう、今回もそんな偶然が重なっただけに過ぎない、それは本にたまたま付属されて出来た栞を、挟んだこと、だ。
「お父さん、お帰り!」
「おお、幸田、こんな遅くまで起きていたのか?」
「うんっ! 今日はお父さんの誕生日でしょ? 寝ないで待ってたんだ!」
「そうかそうか、それは嬉しいな、じゃあ、そんな幸田にお父さんから一つプレゼントをあげよう」
「? 今日はお父さんの誕生日でしょ? 僕にプレゼントくれるの?」
「ああ、幸田が大きくなったら、必ず役に立つものだ・・・これだよ」
「真っ黒な・・・本? 焦げちゃったの?」
「ハハハ、幸田は面白いことを言うな、これはその時がくるまで大切に、絶対に誰にも言わないで取っておきなさい、勿論お母さんにも、いいね?」
「お母さんにも? じゃあ、じゃあ! 僕とお父さんの男の約束?」
「ああ、約束だ、やくそく」
「うんっ!」
「お母さん? 何で泣いてるの?」
「幸田? 幸田っ!」
「お、お母さん苦しいよ」
「幸田、あなたは私が絶対に守るわ、絶対に」
「離してよお母さん、僕潰れちゃうよ」
『引き続き、捜索を続けています、繰り返します、魔法科学開発チームが研究していた栞獣の実験最中、大きな爆発事故が起こった模様です、周囲には非難警告が出されています、尚、生存が不明な人物は、耀政治さんと・・・』
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始まりはいつもそう、なんて事のない普通の日常、それが変わるきっかけなんて、その辺に転がる石ころのように、視界に入っても意識のしていないところで過ぎ去って行くものなのだろう。
俺? それとも僕? それとも私(わたくし)か? いや、わしでも良いけど・・・まあ、自分が自分のことを俺って呼ぶから俺でいいや、いや、それともおれ、のほうが柔らかい感じがするから・・・。
ピピピッ!
そんなくだらないことを高いビルの屋上に寝転がり、夜空にきらめく星空・・・なんて見えない、ただただ真っ暗な漆黒の闇夜を眺めて考えていたときだ、俺のポケットに入っている携帯が、詰まらない一定の音量を流し続ける、取り出して携帯の画面を見ると、名前が光っていた『東奈美晴(あずなみはる)』第十六都市支部長、の名前だ。
「もしもし、東奈さんですか?」
『ええ、所定の位置にはもう着いたみたいね、悪いんだけど』
「わかってます、俺、そのためにこの委員会に入ったんですから・・・場所はどこです?」
『第十六都市の郊外、廃墟ビルの近郊よ、あまり時間をかけると人の気配を察知して市街に現れることも考えられる、よろしく頼むわよ』
「了解」
俺は携帯の通話を切ると、ポケットにしまう。
「さあ、退屈は終わりだ」
俺、ああ、名前を名乗るのはまだだったな、俺、耀幸田(ひかりこうた)はビル、約九十五階建てのビルの屋上から、元気良く飛び出して行ったのだった。
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さてと、と俺は大きく伸びをする、今は夜中の二時、すごく眠いのだが生憎仕事だ、断るわけにもいかない、まあ、他にも仕事を頼める奴らはいるんだろうが、俺がたまたま起きていたということだろう、不幸つったら不幸だけど、退屈しのぎにはなるからまあいい。
俺は足音をなるべく立てないように注意しながら、かつ周りを警戒し、歩いている。
第十六都市の郊外、主にホームレスがたむろっているのだが、敵が来たと通報でもしたのだろう、あたりは妙な重苦しい閑散とした雰囲気が漂う。
暫く郊外をぶらぶらと歩きながら、俺は辺りを見回した、郊外の途中で大きく空間の開けられた倉庫群が姿を現す、等間隔に並んだ大きな倉庫、シャッターは下ろされ、誰かが潜んでいる気配も無い、ここなら、別に暴れてもたいしたことないだろう、俺は急がずそこへ向かうと。俺は振り返った。
「さーって仕事の時間だ、出て来いよ、さっきから俺の喉もとに齧り付こうと潜んでるんだろ?」
返答は無い、油断させようとしているのか? それとも怖気づいたか、後者は困る。探すのが面倒だから、前者のほうがまだ良い。
と俺がそう思ったときだ、背後から恐ろしい唸り声と共に、獣の独特の臭いが俺の鼻を突いた、咄嗟に俺は横へと飛ぶとその場所へと目を移す。
人の姿とは遠くかけ離れた元人が、赤く光る鋭い眼光で俺を睨んだ、口は大きくせり出し、大きな口からは鋭い牙が月明かりと共に鋭く光る。体からは狼のような灰色の毛皮が伸びている。
今俺の目の前に立ちふさがる、人より身長が二倍近くデカイ元人、いや、正確には名前がある、咎人(とがびと)だ。
日本、いや世界といったほうが正しいかな、この世界は今、結構危機だったりするんだ。
十三年前、俺がまだ五の時だ、世界各国にある魔法科学開発チームの栞獣実験を同時発動した際、世界で同時刻、実験場で大きな爆発事故が起こり、そのため奇獣と言う厄介な物が、数を数えるのも馬鹿馬鹿しいほど飛び出してしまった、奇獣は余り長時間空気中に漂って入られない、奴らが生きるためには人の欲望や渇望、望み。そういったどす黒い、誰にでも持っているものを食うことで生き永らえることが出来る、そのため奇獣は人に寄生。そして寄生された人間は、もう人としての生活を放棄せざるを得ない。
奇獣に寄生された人間は咎人となり、他の人間を襲うようになる、まるで、何処かのゲームみたいに。
今回俺の目の前に立ちふさがる咎人、タイプはフェンリル、知ってるか? グレイプニルの縄を食いちぎって神、オーディンを喰っちまった北米神話最大の怪物、まあ、人に取り憑いた際にスケールは大分小さくは成っているものの、元は口を開ければ下あごは大地に、上あごは天にも届く大きさ、神話っつーのはスケールが何でも兎に角でかいんだよなぁ。
「キサマ、ナゼイルトワカッタ? グゥゥゥ! ケハイハケシタハズダガ?」
咎人(タイプ・フェンリル)は唸り声を上げて俺を睨む、巨体から発せられる殺気にも似たその威圧感は、戦闘に慣れている俺も少し参る。
「あー、怒らせちまったか? いや別に気配どうのこうのじゃあないさ、人気がない郊外の中俺だけ歩き回ったら流石に来るだろうと踏んでな、適当にそれらしく格好つけて言ってみただけ? 納得したか?」
「ナルホドナ、マンマトワレラハハメラレタトイウコトカ・・・」
作品名:BBB(Beast between books) 作家名:髪様