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桜ト智香物語

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これでも生まれた頃から一緒というステータスを共有している関係だ、従って、手懐ける心得が無いと言えば嘘になる。
つまり、未だにちょっこっとだけ拗ねているお姫様の機嫌取りなど朝飯前。
餓えた…?ハムスターを落ち着かせる方法など、今時幼稚園児でも嘲笑うだろう。


「本当にごめんって…代わりに埋め合わせちゃんとするからさ…………っね?」


「………。」


まあまあ、まだ余興の範囲内。
あたしは、その抱擁力の名残惜しさを退かれながら吟味しつつ、ポーチをあさると一枚の紙切れを取り出しひらひらさせ、我ながら気持ち悪いと思ってしまう程存分にニヤけて桜を見下ろした。
桜は、ぽかーんとしている。


「これなーんだ?」


一生懸命になって丸い瞳を泳がせている桜がなんとも愛らしい。
ひらつかせる速度を段々と下げながら、この戸惑っている桜がつっぼてしまったあたしは相当な変態さんなんだなと再認識しつつ…


「この間、ここら辺に新しくオープンしたパフェ専門店みたいなの…あったでしょ?」


「うん!!……っでも…私が入りたいってちかちゃんに言ったら…高いからダメって…、」


気のせいだろうか、そう言って落ち込む桜だが、ちょろっと上目づかいで微かに希望に満ちたクリクリおめめをこっちに向けてきている。
やめろ…そんな目でみるな、理性が吹っ飛んじゃいますよー桜さん。


「これ…なーんだ?」


心の中のずれた葛藤を必死に抑えながら、もう一度ニヤけ全開で問う。


ふと、この紙切れの文字を読み取ったのか…なにか小動物的に感じ取ってしまったのか、眉間によせていた皺を思いっきり広げさせて…あっ、とキラキラオーラ全開で見事な笑顔をつくる桜。
んー、怒ってる桜も最高だけど、やっぱり笑顔が一番だと思う、ほら…可愛いもん。
そんな危ない妄想に気づきもせず、


「ちかちゃん!!それっ…!!」


なーんて、わくわくみたいな音がすぐさま聞こえてきそうな感嘆したスマイルと声。
本当に無邪気に笑うもんだから、なぜかこっちまでくすぐったくなってくる。そんな違和感に背中が痒くなるのを感じながら、ちょっと赤くなった頬を隠すように、いままで空中で彷徨っていた紙切れの先端を掴み、パン…っと広げてみせた。


「じゃあーんっ!!あの店のパフェどれでも一品無料権でしたっ!!…あたしが奢ってやるんだから、今日の遅刻は大目にみること、そんじゃさっそく行きますか!!膳は急げって言うし…っね?」


さらりと詭弁を謀ったつもりだったが、キリッと一瞬豹変した桜は、ぷくーっと膨れてみせ、


「もう…!!またそうやって誤魔化そうとするんだからっ!!私はまだ怒ってるんですからね…。」


ウソつけ…心で呟いて含み笑いをこぼす。まあ、この子は気弱に見えて強がりの頑固屋さんだったりするのだが、周りから見ればその内心は表情や仕草でバレバレなのだ、今だって手をぎゅっと握っちゃって、後悔してますと言わんばかりに眉を萎ませている。
こんなそわそわした桜を目の前で見せ付けられると、つい苛めたくなってしまうのは、自分の制御システムがゆっるゆるになってしまっているのか…はたまた桜の能力なのだろうか…。


ぷい…っとそっぽを向く桜のやんわりとした頬を、意地悪くつんつんと突付いて、


「まあーいらないんならいいーんだけどさっ、今度、奏と遊ぶときにでも二人で食べに行けばいいーんだしさっ…んじゃ、服でも見に行きますかー」


若干早口に言って、まわれー右して…はーい……がしっ、とな、


「まってぇ…っ!!」


ニヤニヤしながら振り向けば、今度はまた違った意味で瞼に涙を浮かべる桜ちゃん。
抱きしめてもよかですかい。
もはや紅く火照りすぎて、頭から湯気がでてきそうなほど羞恥丸出しで、必死にあたしの色気もへったくれもないデニム生地のパンツを細い可憐な指で掴んでいた。


「まって?ん…?どうした、桜?」


わざとしらを切るが…分かるだろう。泣きべそかいて、掴んでいる指の力をぐっ…と込めながら、次の言葉を一生懸命口の中でごにょごにょさせているこの子を見れば、


桜の口からゆっくりと言葉が洩れる。











「わた…しだって、パ、フェ…たべたいもん…。」










ちょっと弄りすぎたかもしれない…けど、なにこの可愛いやつ…?
あとで思う存分抱きしめさせてもらおうか、なんて企みながら…自分の中で出来る限り優しさを込めた笑顔で微笑んでみせ、桜の視線に合わせるようにしゃがみこむ、腕をのばして、そのふわふわな頭に手をおいてやると…桜と目があった。


「ごめんごめん…ちょっちぃーからかいすぎちった。おねーさんが悪かったよ、でも桜がすんごく可愛すぎるから…つい…っな、」


「ちか…ちゃん?」


「ん、よしよし…パフェ、食べにいこうな…桜とあたしでっ!!」


少し雑に、ぐしゃぐしゃぁと頭を撫でながら、そう言うと…
照れたように、そして、嬉しそうな表情に変わっていくのが分かった。
あたしは、そんな桜から眼を離さずに立ち上がって、そんじゃいきますか…と、け伸びをした。
それに対して桜は、擽ったそうに肩を揺らし、


「…うん、たのしみだねっちかちゃんっ!!」


そう、あたしの名前を呼ぶと、本当に純粋に無邪気に、










車椅子の上から微笑んだ。









作品名:桜ト智香物語 作家名:もみじ