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遼州戦記 保安隊日乗 6

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 自虐的に笑って手にした銃を見て笑う要。誠も自分達の持っている銃に入っている弾が殺傷能力の低い弾丸を使用したものだと言うことを思い出した。
「とりあえず分かれたら危険だ。西園寺がポイントマン。クラウゼが後衛を頼む」 
「だろうな……」 
「了解っと!」 
 要が銃を構えてそのまま走り出す。誠とカウラはそれに続いた。
 一階のかつては診察室だったらしい部屋の並ぶ廊下で要が足を止めた。そのまま一つ目のドアを指差し突入するべきかとカウラにハンドサインを送る。
 頷くカウラ。それを見た要はそのまま半分朽ちた扉を蹴破って中に入った。
「なにやってるのよ!」 
「でけえ声出すんじゃねえよ!」 
「先に扉を蹴破って大きな音を立てたのは要ちゃんでしょ!」 
 何も無い診察室の中に飛び込むとすぐさま喧嘩を始めるアイシャと要。カウラはこめかみに手を当てながらいつものように呆れて二人が口を閉じるのを待った。
「結構広いから大丈夫なんじゃないですか?」 
『そんなわけ無いでしょ!』 
 アイシャと要がせっかく仲裁に入った誠を怒鳴りつける。落ち込む誠の肩を叩きながらカウラは部屋から外を眺めた。
「全く……一人の方が向いてるぜ、アタシには」 
 そう言うと要はカウラを押しのけて周りを見回した。彼女の目は闇夜には向いていた。眼球にはスターライトスコープが仕込まれていて、もうすでに太陽が沈んで暗がりばかりになった廃病院の何も無い光景を見通すことができた。
「ラッキーだな。誰もいねえよ」 
 そう言うとショットガンを構えながら走る要。誠達もその後に続いた。物音は誠達の走る靴の音ばかり。ただひんやりとした空気を頬に感じながら誠は走った。
 要が階段の手前で立ち止まると中腰で手で後続のカウラ達に止まるようにサインを出した。
「誰か……」 
 確認をしようと口を開いた誠の口元に要が指を差し出して制止する。そして指で上の階を指すと一人の人物がそこにいると言うハンドサインを出した。銃を握り締める誠。その不安そうな様子にニヤリと笑みを浮かべた後、要は静かに階段を登りはじめた。
 誠にもしばらくして気配が感じられた。何かを探していると言うような雰囲気が頭の中を駆け巡る。
『水島勉の法術発動かな……でもそれなら……』 
 考え事をしていた誠は階段の端にあった窓ガラスの破片を踏んで音を立ててしまった。
「誰だ!」 
 高めの男の声が響いたので誠達はそのまま声がしたあたりから見えないようにそのまま身を暗闇に沈ませた。
「ったく……桐野の旦那も困ったもんだぜ……」 
 悪態を付きながら声の主は遠ざかっていった。
「桐野の旦那?」 
 ささやくような声で誠が要に目を向ける。
「桐野……聞かねえ名前だな……」 
 曖昧に首を振る要。アイシャも難しい表情で黙り込んでいた。
「先ほどの声の声紋は取れたか?」 
 カウラの一言に驚いたように顔を上げたあとで黙り込む要。
「間違いねえ。あれは北川公平だ」 
「すると……動いているのは『ギルド』?勘弁してよ……」 
 アイシャはそう言うと首を振ってお手上げと言うように手を広げる。誠も彼女の放った『ギルド』と言う言葉に少しばかり恐怖を感じ始めていた。
 遼南王朝の手足となって働く法術師集団。何度とない政変で今は王朝の支配を離れ、『太子』と呼ばれる長髪の大男に率いられていると言うテロ組織。近年は遼南のイスラム原理組織や外惑星のゲルパルトのネオナチ系の非合法組織と連携しての動きを水面下で見せている。そのことはランからも聞いていたので事の大きさを誠も自覚した。そしてその『ギルド』でも『太子』直轄で動いている法術師の北川公平が動いている。その事実は自分達の独断専行と取られかねない出動が拙速だったことを知らしめるには十分な出来事だった。
「相手は『ギルド』。しかも正体不明の人斬りとこれも能力の判定ができない法術師のおまけ付き。仕切りなおす?」 
「馬鹿言うんじゃねえよ……ここで逃げたらシャムに笑われんぞ」 
「シャムちゃんはこういうときは笑わないと思うわよ」 
「いちいちうるせえアマだなあ」 
 アイシャと要がごちゃごちゃと喧嘩を始める。黙って二人を見つめていたカウラだが覚悟を決めたと言うように顔を上げた。
 要は静かに階段を登っていく。誠とカウラはその様子を見ながら静かに彼女が登りきるのを待っていた。
 そのまま顔を出した要。そしてそのままついて来いというハンドサインを出す。誠、カウラはそのまま銃を手にゆっくりと階段を登った。
「アイツ等も水島とかいう奴を見失ってるみたいだな」 
 そう言うと要は静かに銃を小脇に抱えると腰の拳銃に手を伸ばした。
「やるのか?」 
「丸腰とは思えねえからな。とりあえず確認しただけだ。ちゃんと入っているな……弾」 
「要ちゃんらしくも無いわね。緊張してる?」 
 後から追いついたアイシャの言葉に力なく笑みを浮かべる要。状況としてはいつもの強気が要に無いのは誠にも理解できた。
「恐らく『ギルド』の連中以外にも水島をここに飛ばした法術師を擁する勢力の介入が予想されるわけだ。慎重に動くだろうな」 
 カウラは前方をうかがう要の後ろから声をかける。
「確かにそう簡単に尻尾を掴ませない奴等の事だ。相手によっては無理はしねえだろうな……ネオナチ連中だと数で来るそうなると怪我じゃすまねえ事くらいの分別はついてるだろ」 
 要の表情が再び曇る。そして誠と目があった要は自分の弱気を悟られまいとそのまま北川が消えていった方向に眼を凝らす。
「実弾は……カウラちゃん持ってる?」 
「スラグ、散弾ともに無しだ。場合によってはこちらでやるしかないな」 
 今度はカウラが腰の拳銃を叩く。誠もさっと腰に手をやる。
「誠ちゃんは期待していないから良いわよ」 
「すみません……」 
 謝る誠に笑顔で返すアイシャ。それを見て舌打ちした要はそのまま立ち上がって北川の歩いていった方に歩き始めた。
「無駄口はいい、進むぞ」 
 カウラの声に誠の顔から笑顔が消えた。次第に闇夜に沈む廃病院。要の目に内蔵された暗視機能と誠の法術師としてのサーチ能力に頼る前進。
 北川の足音が次第に遠くなる。誠は要についていきながらただどこからか飛び出てくるだろう第三勢力を想像しながらショットガンを構えながら進んでいった。


 低殺傷火器(ローリーサルウェポン)52


「何でこんなことに……なんでこんなことに……」 
 震えていた。水島はただ狭い書庫にしては大きすぎる棚の中で震えていた。気配の数が増えたのを感じる。警察か……それとも他の組織か……思いを巡らす度に恐怖が増幅される悪循環に思わず頭を抱えた。
『それはね、おじさん……あなたに力があるからですよ。力がなければあなたなんかにだーれも目なんてくれないよ。でもあなたにはそれがあった。そしてそれを使ってしまった。力があるって事はそれだけで責任が伴うものなんだよ。それを無視したから……ああ、知らなかったなんて世の中じゃ通用しないよ。いい大人なんだからそのくらい分かるでしょ?』 
 頭の中であざ笑うようにクリタ少年の声が響いた。だが水島には今は震えること以外はできるはずも無かった。