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遼州戦記 保安隊日乗 6

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 背中に声を受けて誠が振り返る。そこには朝のシャワーを浴びてすっきりしたような顔のアイシャがいた。こちらも紺色のスタジャンに短めのスカート。出勤の時のアイシャは大体スーツを着るので休日の捜査など考えに無いという感じでそのまま要の前の席に座って誠に手を出す。
「何ですか?」 
「お茶」 
 当然のようなアイシャの言葉に誠はカウンターの手前に置かれた湯飲み三つと番茶の入っているポットを持ってアイシャの隣に座った。
 静かにお茶を入れてアイシャに差し出す。彼女はそれを受け取るとひじをついてずるずると音を立てながら啜り込む。
「下品な飲み方をするんじゃねえ」 
「下品なのは要ちゃんだけで十分だものね」 
 にらみ合う二人。なだめる気分にもなれずそのまま誠はうどんを食べ終えてくつろいでいる要に湯飲みを差し出した。
「皆さん……今日は」 
「今のところカルビナ待ちだ。揃ったら出かけるからすぐに食事を済ませろよ……ほら、カウラも来やがった」 
 緑色のセーターが食堂の入り口に見えた。エメラルドグリーンの髪を後ろで纏めながらカウラが歩いていく。そして彼女はそのまま厨房に足を向ける。
「でも……非番だと……」 
「非番だからなんだよ」 
 誠の口答えに番茶を飲みながら要がにらみつけてくる。
「いえ、なんでもないです」 
「嘘よね。何かある顔よ」 
 そう言いながらアイシャも紺色の長い髪をなびかせながら立ち上がる。
「うどん二つ!どちらもカウラちゃんより多くね!」 
 うどんを受け取って歩き始めたカウラを意識したようにアイシャが厨房の中に叫ぶ。カウラは苦笑いを浮かべながら要の隣に腰を下ろした。
「上官にサービスさせるとはいい身分だな」 
 言葉は皮肉めいているがカウラが言うと皮肉に聞こえない。そんなことを考えている誠を無視してカウラはうどんを啜り始めた。
「はい、どうぞ」
 うどんをゆっくりと啜るカウラを見ていた誠の視界に突然現れたアイシャはそう言いながら誠の目の前に大盛りのうどんの入ったどんぶりを置いた。
「食べちまえよ。さっさとな」 
 要に言われるまでも無く誠もテーブルの中央に置かれた箸に手を伸ばす。
「でも非番の日に捜査なんて……」 
「普通はやらないけど……うちは普通じゃないでしょ」 
 すごい勢いでうどんを啜り上げた後、満足した表情でアイシャが呟く。それを見ると誠も急いで食べなくてはと言うような義務感に駆られて一心不乱にうどんを啜り上げ始めた。
「遅れてすいません!」 
 食堂に集う寮の住人達にざわつく気配を感じて顔を上げた誠の耳にラーナの声が響いた。
「良いわよ私達も見ての通り食事中だから」 
 私服の皮のジャケットを着たラーナはいかにも申し訳ないというように再びうどんを啜り始めたアイシャの正面に腰を落ち着けた。
「どうせ命令の範疇を超えた話になるんだからもう少し楽にした方がいいな」 
「おい、カウラ。いつからそんなに話が分かるようになったんだ?以前なら『捜査は捜査だ。非番だろうが関係ない』とか言い出す奴だったのに」 
 要の皮肉にこめかみをひくつかせながらカウラは無視してうどんの汁を啜る。
「話が分かるも何もベルガー大尉には本当に感謝ですよ。東都警察機動隊の端末を経由して本庁のサーバーにアクセスできればかなり詳細な分析結果を見れますから」 
「機動隊?サーバー?」 
 突然のラーナの言葉に誠は吸い込んだ麺を吐き出すところだった。
「機動隊の隊長をしているカウラちゃんの友達のエルマさんがいるでしょ?その人にお願いしたら上には内緒と言うことで手配してくれたのよ」 
「でも良いのかねえ……機動隊のパスでサーバーに入るってのは本来拙いんじゃないのか?」 
 誠よりも早くうどんを食べ終えたアイシャの強気な言葉。そんなアイシャに言った要の一言に周りが凍りついた。
「要ちゃん……いつも要ちゃんがやるようなことじゃないの。それとも気付いてないの?」 
「西園寺が鈍いのはいつものことだ。自分がやっていることが命令に即していないと言う自覚が無いんだろうな」 
 アイシャとカウラの皮肉に明らかに気分を害したと言うように要は立ち上がると冷えたどんぶりと番茶の半分ほど入った湯のみを持って厨房に向かう。
「でも……機動隊の端末を弄るとなると東都警察の本部に行くんですよね。入館証とかは大丈夫なんですか?」 
 今度は誠の言葉にアイシャ達はきょとんとした顔で誠の顔を見つめた。
「馬鹿だろオマエ。端末のところまで行かなきゃ情報が見れないなんて……いつの時代だよ。うちの冷蔵庫から機動隊の端末にアクセスして本庁のサーバーにログインしてそのまま今回の事件のアストラル波動計測のデータを覗くんだよ」 
 戻ってきた要はそう言うと番茶の入ったポットに手を伸ばすがすでに湯飲みを返してきたことを思い出してすぐに手を引っ込める。カウラがその様子をうどんの汁を飲み干しながら見つめている。そしてその視線に気付いた要が威嚇するような顔をするのを見て苦笑いを浮かべると、満足したようにどんぶりを置いた。
「それと……ついでと言ってはなんだが、これまで何度か豊川署のデータベースにアクセスしたときに見つけた私達の知らないデータもあるからな。そちらも見てみるのもいいかもしれないな」 
 要とカウラの言葉に今ひとつ納得が行かないまま誠は静かにどんぶりの底に溜まった汁を啜り始めた。
「それにしてもさあ。いけ好かない下衆野郎が必死で隠している秘密を探るってのはさあ……わくわくしねえか?」 
「貴様は子供か?」 
「子供で結構!」 
 ノリの悪いカウラを馬鹿にするように要が手を振り回す。驚いた整備班員がかわそうとするがよけきれずにそのまま顔面にサイボーグの怪力でのパンチが入った。
「あ……」 
 よく見ればそれは部隊最年少の整備班員の西高志兵長だった。出勤時間間際。食事を終えて安心しきっていたところへの一撃に思わず西はうずくまる。
「ごめんね……馬鹿が暴れて」 
 まるで誠意の感じられないアイシャの謝罪。
「ええ、大丈夫です……鼻血も出ていないみたいですし」 
 西は顔を抑えながらもなんとか自力で立ち上がった。鉄の規律と結束で知られる整備班員はその様子を見ながらもニヤニヤ笑って見せるだけ。まるで助ける様子も無い。そこには日ごろの西への整備班員の嫉妬があった。
 第四小隊。保安隊設立時の発起人の一人、胡州海軍中将赤松忠満のコネクションで出向してきたアメリカ海軍の軍籍を持つ異色の部隊。そこに配備されたアメリカ海軍最新式アサルト・モジュールM10担当の技術士官。それがレベッカ・シンプソン中尉だった。ほんわかとした見た目に似合う眼鏡と金色の柔らかい髪が似合う美女。そして部隊最大で要に『おっぱいお化け』と呼ばれる彼女は西とは非情に仲がよくいつも行動を共にしている。