命短し恋せよ学生!
「へーえ、おさななじみってやつだね。そのわりに私初耳だけど」
「あいつ市立の小中一貫だったのよ。ていうか気色悪いこと言わないでくれる」
そしてお世辞にも理解力が高いとは言えない私が彼女と無理なく会話できているのは、ひとえに付き合いの長さのなせる技としか言えない。小学校からもうかれこれ12年来の付き合いになるのだし。
めいっぱい本気で顔をしかめたえんちゃんは、本棚一つ挟んだ向こうにあった椅子を引っ張ってきて、いつも通りの横柄さでどっかと腰をおろした。
「さや、あんた何考えてるの?」
「いつもの如くこれといって何も考えてないけど?」
「何も考えないであの馬鹿に関わる阿呆がいるわけないでしょ」
その阿呆なんだなあ、と生温かい笑いで受け流して、作業の終わった本を一冊脇にある背の低い本棚に積んだ。
「ちょっとだけね、彼の恋の行方が気になるんだよ」
「…………”それがいばらの道であると、あれも解っているのに?”」
「────”そう、それでも歩みを止めない勇気。わたくしはそれを信じてみたいのです」
「”険しい道には拒絶しかないだろうに”」
「”傷ついても得るものはあるでしょうと。前しか見ることのない瞳があの人をそうあらしめているのですから”」
合ってたかなあ、とわずかに首を傾げつつ繋げると、ふんぞり返ったえんちゃんがその言葉を鼻で笑う。
「前しか見ない? んなわきゃないでしょあのネガティブ馬鹿野郎が」
「先に『草むら王子』ネタ持ち出したのえんちゃんじゃんかー」
「最近読み返したから頭に残ってたの。まさか繋げてくるとは思わなかったわよ」
ひどいなあ、さすがえんちゃんだよ。私はその一言を飲み込んで次の一冊に手を伸ばした。それを合図と悟ったえんちゃんがきれいな黒髪を残して立ち上がる。鋏でビニールカバーを切りながらその黒髪を視界の端で追いかけて、私は一つだけため息を落とした。特に理由はない。延々続くブッカー作業に疲れたのかもしれないし、えんちゃんとの会話が面倒だったのかもしれない。自分のことではあるけれど、それは私にとって本当にどうでも──どちらでも──いいことだった。
切り終わった途端くるりと丸まってしまうカバーを手で伸ばして、膝に置いていた次の本にかぶせる。シール紙をはがして定規でもって空気が入らないように張り付けていく。出来上がりさえ気にしなければ目を瞑ってもできるくらい手慣れた作業。
イヤホンを耳につけ直して知らない内に数曲進んでいたロックを聞き流し続きを始めたら、スカートのポケットに放り込んでいた携帯が不快なリズムで振動を始めた。今度バイブの種類変えよう。
桧山くん。ディスプレイには無理やり改造した丸文字フォントでそう表示されている。あまりのタイミングの良さに驚いて、私はゆっくりと通話ボタンを押した。
「もしもし、今度はどうしたの?」
受話器の向こうで、桧山くんが泣きそうな声で叫んでいる。その声を聞いて、私はひどくやさしい気分で笑った。