夢問人
とある国。
ここでは不吉な暗雲が立ち込めていた。
怪物と呼ばれる猛獣が徘徊し、次々に人間を喰らっていく。
不安と恐怖が入り混じる世界。
希望の欠片さえ見いだせない生活が続いていた。
人々は云う。
これは魔王の仕業なのだと。
そんな時、一人の勇者が、魔王が居ると言われる彼の地へと向かった。何者を恐れない強靭
な肉体と精神を持つ勇敢な若者は、臆することなく立ち向かい、人々は勇者の活躍に大いに期待した。
「勇者様! 勇者様! 」
勇者は人々の期待を受け、苦闘の末、魔王を打ち破った。
帰還した勇者は、人々と国王に迎えられた。
国中を挙げての凱旋パレードも開催された。
人々は歓喜に酔った。
世界中が平和と祝福に満ちた。
それはまさしく、英雄が誕生した瞬間だった。
国王は言う。
「勇者よ、我が姫をもらってはくれないか? 」
勇者は、美しい国王の娘と婚姻を交わした。
「皆の者! 勇者の栄光を永久に称えようぞ! 」
「おおおおおおおお! 」
勇者を称える声と歌はいつまでも続いた。
その後、勇者は国王の後を継ぎ、王女と幸せに暮らした。
ところが勇者は、これが終着点でないことに気がついた。
例え、目指していたものが手に入っても、自分自身の物語は、生きいている限り続いていく
ことを知った。
この世のすべてのことは、ただの通過点にしか過ぎない。辛いことも、悲しいことも、どん
なことにも先はある。例え、夢が叶っても、我々は息絶えるその時まで、成長を続ける。
我々は、いつどんな時も夢を問い続け、進んでいくものだ、と。
「はい、お終い」
老人は孤児たちの前で、本をバタンと閉じた。
昼下がりの午後、穏やかな日だまりの中、新緑の上を優しい風がそよぐ街外れの孤児院の庭
で、椅子に深く腰掛けた老人の周りには、数名の孤児たちが話を聞きに集まっていた。
「え~!
薬師のじいちゃん、最後がわかんなかったよ~! 」
肘をつきながら真剣に話を聞いていた子供たちは、まるであっけない終わりと言わんばかりに不満を漏らし、体を起こしながら懸命に老人に抗議した。子供たちは何度も、老人に話の続きをねだった。
「はっはっは」
老人は声高らかに笑った。
―終―