続々・三匹が行く
「お師匠様。僕にお休みを下さい」
にっこりと笑ってイジューインは目の前の師匠にそう告げた。
品行方正、成績優秀。わがままなど一度たりとも言った事が無いと評判の次期宮廷魔道士。その彼の初めての申し出に、現宮廷魔道士シノノメは少しだけ驚いた。
「休みとな?」
梯子に登り、普段は手にしないような本の数々から目的の本を探していたシノノメは、珍しい事だと思いながらも滅多にないことだからと軽く答える。
「別に良いぞ」
実に働き者で良く気が利く弟子だった。
周囲からは「シノノメ様には勿体無いほど良くできたお弟子さんだ」などと言われているのも知っている。彼が休みなく頑張っているのも知っている。
少しは休みを与えてあげたらなどと周りからも言われていたし、ちょうど良い機会やも知れぬ。
「で、どのくらいじゃ?」
一週間か二週間か……まあ、一ヶ月くらいなら与えても別段支障はないだろう。切羽詰っている公務もないし、穏やかな日々が続いている今ならば。
それに対して、イジューインはさらりと答えを返してきた。
「明日から三年ほど」
思わずシノノメは梯子から転がり落ちた。
同時に貴重な書物の幾つかが巻き添えを食って床に転がる。
「あ、お師匠様大丈夫ですか? 貴重な書物の数々を下敷きにしちゃ駄目ですよ」
「…………」
「あーあ、こんなに散らかして。片付けるの大変ですね」
「……待て、イジューイン」
共に落ちた本の山に埋もれていたシノノメは、何とか自力で起きあがり弟子と向き合う。
「三年の休みとは何だ? 理由を述べよ」
事と次第によっては容赦はしない。全く非常識にもほどがあるというものだ。
だが、シノノメはあっさりと答えた彼の言葉を聞いて、反論の余地を無くす。
「はい、お師匠様。チヒロの旅の同伴です!」
(……チー坊か……)
イジューインの弟、チヒロ。
正式に会った事はないが、遠くから姿を見かけた事ならある。
その時のイジューインの顔ときたら、弟が可愛くて可愛くて仕方ないと言った風体で、思わず声をかけるのをはばかった。
……というよりは、声をかけたくなかった、と言った方が正解か。
間違いなくのろけられるだろうことが分かっていたから。
(……しかし、チー坊に関してだと小奴てこでも動かぬしのお。諦めるしかないかのう……)
にっこりと笑ってイジューインは目の前の師匠にそう告げた。
品行方正、成績優秀。わがままなど一度たりとも言った事が無いと評判の次期宮廷魔道士。その彼の初めての申し出に、現宮廷魔道士シノノメは少しだけ驚いた。
「休みとな?」
梯子に登り、普段は手にしないような本の数々から目的の本を探していたシノノメは、珍しい事だと思いながらも滅多にないことだからと軽く答える。
「別に良いぞ」
実に働き者で良く気が利く弟子だった。
周囲からは「シノノメ様には勿体無いほど良くできたお弟子さんだ」などと言われているのも知っている。彼が休みなく頑張っているのも知っている。
少しは休みを与えてあげたらなどと周りからも言われていたし、ちょうど良い機会やも知れぬ。
「で、どのくらいじゃ?」
一週間か二週間か……まあ、一ヶ月くらいなら与えても別段支障はないだろう。切羽詰っている公務もないし、穏やかな日々が続いている今ならば。
それに対して、イジューインはさらりと答えを返してきた。
「明日から三年ほど」
思わずシノノメは梯子から転がり落ちた。
同時に貴重な書物の幾つかが巻き添えを食って床に転がる。
「あ、お師匠様大丈夫ですか? 貴重な書物の数々を下敷きにしちゃ駄目ですよ」
「…………」
「あーあ、こんなに散らかして。片付けるの大変ですね」
「……待て、イジューイン」
共に落ちた本の山に埋もれていたシノノメは、何とか自力で起きあがり弟子と向き合う。
「三年の休みとは何だ? 理由を述べよ」
事と次第によっては容赦はしない。全く非常識にもほどがあるというものだ。
だが、シノノメはあっさりと答えた彼の言葉を聞いて、反論の余地を無くす。
「はい、お師匠様。チヒロの旅の同伴です!」
(……チー坊か……)
イジューインの弟、チヒロ。
正式に会った事はないが、遠くから姿を見かけた事ならある。
その時のイジューインの顔ときたら、弟が可愛くて可愛くて仕方ないと言った風体で、思わず声をかけるのをはばかった。
……というよりは、声をかけたくなかった、と言った方が正解か。
間違いなくのろけられるだろうことが分かっていたから。
(……しかし、チー坊に関してだと小奴てこでも動かぬしのお。諦めるしかないかのう……)