太陽の花
自分ではなく、柊吾が傍にいるから余計にだ。
けれど、自分の信念を曲げる事もできなかった。
「まぁ、とりあえずおめでとう」
黙り込んでしまった郁斗に何を思ったのかはわからないが、柊吾が微笑んで祝いの言葉を口にする。
「……お前に言われると、気味が悪い」
「そこまで言われるとさすがに傷つくよ、俺も」
しれっとした顔で、そんな事を言う柊吾に郁斗が思い切り顔を顰めた。
嘘を吐け、と言いそうになったが何とか我慢する。
どうやっても傷つきそうにない人間が何を言ってる、とも思う。
「郁斗!!」
ぱたぱたと静奈がタオルを手に駆けて来て、手にしたそれを郁斗の頭に被せた。
「風邪ひいちゃうといけないから」
彼を労わるように、そっと彼の髪を乾かす。
「……自分でできる」
隣から痛いほどの視線を感じて、郁斗は彼女からタオルを受け取る。
タオルで髪を拭く郁斗に微笑んでから、静奈は口を開いた。
「ね、明日の予定はある? 郁斗」
「いや」
彼の返答に静奈がにっこりと微笑む。
「柊吾は?」
「俺もないけど」
何で、と付け加える柊吾に、静奈は嬉しそうに笑った。
「お母さんがね、郁斗の誕生日も兼ねて、遊園地にでも行ってきなさいって」
チケットが3枚あるんだ、と微笑む静奈に柊吾がなるほど、と呟く。
しばらく柊吾は考え込んでいたが、何かを思いついたように静奈に視線を向けた。
「それって、プールもあるっていう遊園地……?」
「うん」
こくりと静奈が頷いて、可愛らしく首を傾げた。
「もしかして行きたくない?」
「「行く」」
見事に二人の答えが重なって、静奈が噴き出す。
くすくすと笑いながら、彼女は二人の顔を見上げた。
「……ホントに仲良いよね、昔から」
どこが、と言ってやりたいのを二人は懸命に堪えて、むっつりと黙り込んだ。
「明日が楽しみだね」
晴れた空を見上げて、静奈が呟く。
嬉しそうに彼女が微笑むのなら、それでいいと二人は小さく笑った。
楽しそうに笑う彼女の顔が見れるのなら、それで二人は幸せなのだ。
「……あ」
小さく呟いた静奈に二人が不思議そうに彼女を見やる。
「まだ言ってなかったよね、郁斗」
彼の手を取って、静奈がにこりと笑って、言葉を続けた。
「ハッピーバースデー、郁斗」
END