蚊帳の外で籠の中。
●アウトサイド・トゥ・インサイド
放課後、第一校舎一階、保健室の前。ドアに手をかけ、開く。
「また来たんだ」
廊下側のベッドから不機嫌な声。
「おう。お嬢さん、元気?」
元気に挨拶すると「その呼び方やめろ」といつも通りのいい返事が返ってきた。元気そうで何より。
保健室の中に他の人影は見当たらない。にも拘わらずお嬢は白いカーテンを閉め切ってベッドに引き籠っている。俺はカバンを置いて一呼吸置いて、テリトリーへ踏み込んだ。
「じゃーん。坂村竜太、参上!」
「だから勝手に入ってくんな」
麗しのお嬢はジャージ姿で横になっていたその身を起こして俺を睨みつけてくる。
「まあまあそう言わず」
「とかいいつつベッドに登ってくんじゃねー」
「寒いんだもん」
「凍え死ね」
俺を追い出そうとする腕を捕まえて「どうどう」とか宥めつつお嬢と俺、同衾状態。おっと、包帯ぐるぐるなマイライトハンドを庇うことも忘れずに。はー、ぬくい。
保健室の引きこもり。人呼んで、深窓の令嬢。
お嬢こと芦田譲(十七歳男性)がこのような不名誉(笑)なあだ名を付けられたのは勿論彼のファーストネームだけが所以ということではない。まぁ要するにお嬢は見た目がちょいと女の子ぽいのである。
さらさらの黒髪、白い肌(病弱だから)、猫っぽい印象の目、低い身長、細い身体と手足(病弱だから)、えーとあとはなんだろ。そうだなぁ。もっと愛想よくしてればもっと美少女に近づけるのだけど。
見つめてみる。黒目がちなおめめが吊り上っている。お嬢はコレがデフォなんだもんなぁ。
「放せ、離れろ、このバカ、変態」
暴言を吐かれた。この野郎。
「つうかお嬢体温高くね?」
熱でもあるのだろうか。こういうときはおでこに触るのが定石だ。しかし今この手を離すとベッドから突き落とされそうだ。よおし。
俺が無言で動くとお嬢が動揺する気配。警戒の目の色。その色へとぐんと接近。驚愕より恐怖に近い動揺を観察したりしながら俺は自分の額を相手のそれへと触れさせることに成功した。
あ、鼻もぶつかった。
と思ったら鳩尾に強烈な蹴りが入って俺の体はベッドから転がり落ちた。「ひでぶ」とか言う暇もなかった。無念。つか痛ぇ。
「お前ホント……もう来るなっ……!」
床から見上げたお嬢さんのお顔はなんだか少し赤いようで、やっぱり熱があるんじゃないのかなぁとぼくは思いました。あれ? 作文?
そして意識がブラックアウト。