彼女と嘘
彼女とは幼い頃から家族同然に過ごしてきた。
きっと自分の家族よりも一緒に過ごす時間の方が長いに違いない。
同じものを見て育ってきた、大切な幼なじみ。
……そのはずだった。
まさか同じ人を好きになるとは考えてもいなかった。
『彼女と嘘』
初めて彼に会ったのは、自分の幼なじみに紹介された時だった。
あの時の自分はまだ高校に入学ばかりで、親しい友人も作れずにいた。
そんな時、一つ年上の幼なじみである凛が会わせてくれたのが彼だった。
凛の部活の先輩であるという彼に初めは全く興味などなかった。
彼の事より、彼に幼なじみが取られてしまうのではないかという事のほうが、自分にとっては怖かったのだ。
でも、幼馴染がどうしても会わせたいというから、彼に会った。
優しげな笑顔を浮かべる人だった。
その笑みに見惚れて、らしくもなく緊張していた自分を彼は優しく頭を撫でてくれた。
普段の自分だったら、ガキ扱いしないで、と言って手を振り払うはずなのに、自分の頭を撫でる彼の手は優しくて、それもできなかった。
そんな自分にも驚いたが、きっとその時にはもう彼の事が好きになっていたのだろう。
「……考えごとしてるの?」
穏やかな声に芽衣は考えるのをやめて、優斗と背中合わせに座ったまま呟く。
夕方の、日が傾くこの時間に教室の床に座ると、少し足が冷えた。
だが、彼と一緒にいられるのなら、それも苦にならない。
学年が違う彼とは、こんな時にしか一緒にいられない。
しかも彼は今年受験生なのだ。
芽衣がわがままなんて言えるはずもなかった。
「……少しね。ちょっと昔の事を思い出してただけ」
そう言って優斗の背にもたれかかれば、彼はその言葉に興味を持ったらしく短く訊き返す。
「昔のこと?」
背中に彼の温かさを感じながら、芽衣は答える。
「……そう、優斗と初めて会った時のこと」
小さな声でそれだけ言うと、口をつぐみ、そっと目を伏せた。
「それで?」
「それだけ」
それきり黙り込む芽衣に優斗は笑った。
そして、読みかけの本を机の上に置いてから、優斗は背後を振り返る。
自分を見上げる少女に彼は柔らかく微笑んで、そっと口づけた。
離れた後、突然の事にきょとんと自分を見返す芽衣が愛らしくて、優斗はまた笑った。
きっと自分の家族よりも一緒に過ごす時間の方が長いに違いない。
同じものを見て育ってきた、大切な幼なじみ。
……そのはずだった。
まさか同じ人を好きになるとは考えてもいなかった。
『彼女と嘘』
初めて彼に会ったのは、自分の幼なじみに紹介された時だった。
あの時の自分はまだ高校に入学ばかりで、親しい友人も作れずにいた。
そんな時、一つ年上の幼なじみである凛が会わせてくれたのが彼だった。
凛の部活の先輩であるという彼に初めは全く興味などなかった。
彼の事より、彼に幼なじみが取られてしまうのではないかという事のほうが、自分にとっては怖かったのだ。
でも、幼馴染がどうしても会わせたいというから、彼に会った。
優しげな笑顔を浮かべる人だった。
その笑みに見惚れて、らしくもなく緊張していた自分を彼は優しく頭を撫でてくれた。
普段の自分だったら、ガキ扱いしないで、と言って手を振り払うはずなのに、自分の頭を撫でる彼の手は優しくて、それもできなかった。
そんな自分にも驚いたが、きっとその時にはもう彼の事が好きになっていたのだろう。
「……考えごとしてるの?」
穏やかな声に芽衣は考えるのをやめて、優斗と背中合わせに座ったまま呟く。
夕方の、日が傾くこの時間に教室の床に座ると、少し足が冷えた。
だが、彼と一緒にいられるのなら、それも苦にならない。
学年が違う彼とは、こんな時にしか一緒にいられない。
しかも彼は今年受験生なのだ。
芽衣がわがままなんて言えるはずもなかった。
「……少しね。ちょっと昔の事を思い出してただけ」
そう言って優斗の背にもたれかかれば、彼はその言葉に興味を持ったらしく短く訊き返す。
「昔のこと?」
背中に彼の温かさを感じながら、芽衣は答える。
「……そう、優斗と初めて会った時のこと」
小さな声でそれだけ言うと、口をつぐみ、そっと目を伏せた。
「それで?」
「それだけ」
それきり黙り込む芽衣に優斗は笑った。
そして、読みかけの本を机の上に置いてから、優斗は背後を振り返る。
自分を見上げる少女に彼は柔らかく微笑んで、そっと口づけた。
離れた後、突然の事にきょとんと自分を見返す芽衣が愛らしくて、優斗はまた笑った。