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初恋

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 クラス替えで別々のクラス、しかも一番教室が離れたクラスになってしまったのが、始まりだった。
 休み時間ごとに顔を見に行っていたのが、徐々に会う時間が減っていった。沙紀がクラスメイトと楽しげにしているのを見るのが苦痛で、私から彼女のクラスへ足を運ぶことをしなくなったのだ。
 休日に2人で会っても、少しでも沈黙が続こうものなら彼女が退屈しているのではと気がかりで辛く感じるようになり、他の友人を誘い、2人きりにならないようにした。
 私と沙紀の距離は確実に開いていっているのをひしひしと感じていた。
 そして、受験を控え、塾に通うようになった沙紀とはついに下校時にすら一緒になることはなくなった。

 沙紀と全く接点のない毎日を過ごしていたある日、1人の友人が発した言葉に耳を疑った。

「沙紀、付き合ってる人がいるらしいね」

 動揺が走る。まさか。私は聞いてない。
 それを周りに悟られないよう気をつけながら、噂の詳細を訊く。

「そうなの?誰と?」
「なんか同じ塾の人らしいけど、奈緒、聞いてないの?」
「私は何も聞いてないけど」
「あれ、意外だね。奈緒には真っ先に知らせてるかと思ってた」

 その後、他の話題に移っても会話は全く頭に入らなかった。
 友人は沙紀に恋人ができたことを確定事項として話していたが、私はまだ半信半疑だった。かといって本人に真偽を確かめることも気が引ける。いまさら縁遠くなった私に報告する気すらないのかもしれない。この話を聞いてから、ますます沙紀と話しづらくなってしまった。

 それから数日後、学校帰りに友人とファーストフード店で話しこんでから駅に向かう途中、見慣れた後ろ姿を見つけた。
 ああ、あれは沙紀だ。そう思うと同時に隣を歩く人に気が付いた。

 ああ、手なんか繋いじゃって。そうか、そういうことか。

 私は彼女達を見ないようにしながら、急いで改札を抜けると来た電車に飛び乗った。
 それからどうやって家に帰ったものか、気が付けば自分の部屋にいた。自分の動揺の仕方に驚きながらも、着替えを済ませ、晩御飯を食べ、お風呂にも入り、きっちり勉強もした。何もかもいつも通り。しかし、さあ寝ようと布団に入った瞬間に駅前の光景が思い出された。

 あれ?なんで私泣いてるんだ?
 
 突然流れ出した涙に頭が働かない。これは何の涙だ?
 沙紀が原因なのだけはわかる。
 何とか理性的に考えようとしても、沙紀とその彼氏と思われる人の姿が脳裏にちらつくたびに、悲しくて、寂しくて涙ばかり溢れてくる。何故悲しい?何故寂しい?誰よりも親しかったはずの友人に恋人ができたことを何も言ってもらえなかったからか?確かに寂しいがそれじゃない。友人を彼氏に取られたからか?それも何か違う。
 
 そして、一つの答えに思い至る。
 
 ああ。ああ、そうか。私は彼女に、沙紀に恋をしていたのか。

 初恋は実らないものとは言うが、まさか破れてから気付くとは。自分の馬鹿さ加減にあきれ、私は笑いながら泣き続けた。


作品名:初恋 作家名:新参者