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ラベンダー
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魔術師 浅野俊介10-最終回-

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「本当は同じ姿で人間界に戻ってはいけないんだけど…。君があんまり悲しむから、この姿で人間界に住むことを許されたんだ。」

圭一は照れ臭そうに浅野から離れた。浅野がリュミエルに向いた。

「それから、リュミエルとキャトルに…」
「?」
「リュミエルもキャトルも神様から恩赦をいただけることになった。」
「!?…」
「リュミエルは1度の過ちの後は、節度をちゃんと守っていたことで赦されることになった。ただ今後も「精神愛」を貫くことが条件だ。」

浅野の言葉にリュミエルはうなずいた。圭一が嬉しそうにリュミエルを見た。浅野は肩に乗っているキャトルに言った。

「そしてキャトルも圭一君を助けるためにリュミエルと契約しただけだから赦されるべき罪だと、大天使様が神様に頼んでくださった。」

キャトルが浅野に頬ずりした。浅野はそのキャトルの体をそっと抱いてリュミエルの肩に乗せた。

「神の恩赦をリュミエルとキャトルに。」

浅野がそう言い、手をリュミエルとキャトルに向けると、強い光が2人に注がれた。
圭一は思わず目を閉じてしまったが、ゆっくり目を開くと、リュミエルの背には大きな白い羽が備わっていた。
そして、キャトルにも可愛い羽が背中についている。

「なんだ。リュミエルは羽が白くなるだけか。」

浅野がぼそっと呟いた。

「…リュミエル!おめでとう!!キャトルも!」

圭一がリュミエルに抱きついた。リュミエルの肩にいたキャトルがそのまま圭一に移り圭一に頬ずりした。
リュミエルは涙を流しながら、圭一の体を抱きしめた。

「リュミエルも圭一君の守護天使だ。」

浅野がそう言って微笑んだ。

「ということで、これからもヨロシク!光ちゃん!」
「その呼び方やめろ。」

リュミエルが泣きながら言った。圭一が体を離して笑った。キャトルが浅野の手に飛び移った。浅野は笑って、キャトルを抱きしめた。

「キャトルは前の俺と同じ生体つきの天使だ。一緒に圭一君を守ろう。」

浅野がそう言いながらキャトルを撫でると、キャトルは「にゃあ」と返事をして浅野に頬ずりをした。

……

翌日夜‐

夜道を歩く、神取の前に浅野がいきなり現れた。
神取は亡霊を見るような目で浅野を見た。

「なんで…」

浅野が指を上へ向けた。ビルの上に来いという意味だ。

神取がビルの上に移動すると、もう浅野がいた。

「俊敏になったな。」

神取がそう言うと、浅野が微笑んだ。

「まあね。」
「何の用だ?」
「今後、私にも圭一君にも手を出さないよう、頼みに来た。」
「…それは無理だ…お前の力を奪うまでは…」
「それこそ無理だ。」
「なんだと?」

神取がそう言うと、浅野の体が光った。

神取が眩しさに慣れた時、浅野を見て驚いた。
銀髪の大きな羽を持った天使が目の前にいた。

「まさか!…あの時の天使!?」
「天使形はアルシェと言う名だ。覚えておくんだな。」
「天使!?…うそだ…お前が天使なんて…」

神取は後ずさりした。

「圭一君に今後手を出したら、私がどんなところでも現れる。バビロン以上の悪魔を召喚しても、やられることはないからな。」
「!!」
「…場合によっては、お前を矢で射ぬくぞ。」
「…天使が…人を殺してもいいのか?」
「お前のやり方は、大天使様も見るに見かねていてね。…お前を射ぬく許可は得ている。」
「!!…何だと!?…そんな…」
「これからの立ち振る舞いによっては、射ぬかなくてすむかもしれない。死んだ後の事をよく考えるんだな。」

そう言って、アルシェは姿を消した。…同時に、神取はその場に座り込んだ。

……

「浅野さーん!」

圭一がイリュージョンショーのリハーサルのため、ステージに立っている浅野に駆け寄ってきた。

「何?圭一君。」

浅野が振り返ると、圭一が息を切らして言った。

「施設の子達が今、着いたって。」
「!そうか!じゃぁ、客席へ案内して。」

施設というのは、浅野が子ども時代にお世話になった児童施設のことだった。浅野もたびたび慰問にマジックをしに行っていたのだが、相澤プロダクションに所属してからは忙しくてなかなか時間がとれなかった。それを知った圭一が明良に話をし、今日無料で招待することが決まった。

「今こっちに…あ!来た来た!」

圭一が、入ってきた子どもたちを指さした。浅野はステージを降り、子どもたちに駆け寄った。

「俊介兄ちゃん!!」

子どもたちが口々に浅野にそう呼びかけた。抱きついてくる子もいる。

「久しぶりだなー。皆、大きくなったね。」

子どもたちは嬉しそうに浅野を見上げている。

「そろそろ始めるから、ちゃんと席に座って見てるんだぞ。立ちあがったり、席から降りたりしたらだめだよ。」
「はーい!」
「はい。じゃ、席に座って。」

子どもたちを連れてきた院長が、浅野に近づき涙ぐみながら頭を下げた。
浅野が慌てた。

「よして下さい、院長先生…」
「…俊介君…本当にありがとう…。あなたには辛い思いばかりさせたのに…こんなことまでしてもらって…」

この院長は、羽を持つ浅野の事を知っている。だが院長自身は、そんな浅野を他の子と同じような目で見て育ててくれた。辛い思いをさせたというのは、その当時の従業員達の態度のことだった。確かに嫌な思いもしたが、施設に入れられた子ども達には罪はない。少しでも子ども達の心の成長の役に立てればと浅野は思っている。

「いえ。院長先生には本当に感謝しています。今日は先生も楽しんで下さい。」
「…ええ。本当にありがとう。」

プロダクション社長の相澤が傍に来た。振り返った院長に頭を下げて挨拶をし、名刺を渡している。

「資金援助をしたいんですが…」

その相澤の言葉に院長が驚いている。
浅野は、ショーの準備のために、その場を離れた。
圭一がマイクテストをしている。

「テステス…なんか、エコー強くない?」

浅野はそんな圭一や、ステージの最終チェックをしているスタッフ、それを見守っている明良の姿、そして観客席で騒いでいる施設の子どもたちと、それを怒っている院長や先生達を見て思った。
自分の居場所は魔界でも天国でもなく、ここなんだと。

(完)