只今、イケナイ恋愛中!
ピピピピピピピ・・・
「っ・・・!」
不思議な夢で目が覚めた。
温かな優しい声が、自身の名を呼んでいた。
けれど、その顔が思い出せない。
「潤ー、遅刻するわよー?」
「あ!は、はいっ」
今日から潤は、神奈川県立N高等学校に通う事になる。
元を辿れば、小学三年生の頃に、海外で音楽を中心に勉強する事を決意した。
けれど全ては甘く見ていた。
上手いようにいかない日々で、周りより落ちこぼれの繰り返し。
そこで言われた言葉を理由に、潤は日本へ帰国した。
『お前には才能もないし、知識もない』
元々、音楽が特別得意なわけではないし、英語だって話せない。
その上人見知りが激しいため、全く持って留学には向いていなかった。
『ここに居ても邪魔なだけだ』
そう。その通り。
『早く国に帰れ!』
だから潤は諦めた。
そこに苛立ちなどなかった。
ただ頭に残るのは、自分への情けと惨めな自身だけだった。
「潤ー、急ぎなさいよー?」
響き渡るのは綺麗な音色ではない。
「今降りるよ」
不恰好な不協和音。
作品名:只今、イケナイ恋愛中! 作家名:蝶々。