リングイネ
口の中に入れた途端に広がる生臭さ! ミートソースの濃厚な味と見事に喧嘩してる! およそ人の食べるものとは思えなかった。
慌てて麦茶で流しこむと、視界の端が少しにじんでいた。泣いてしまうほどまずかったのか。
おかしいなあ。どっちもおいしかったのになあ。なんで合わせるとこんな風になるんだろう。
涙を拭こうと、手で目をこすっていると、視界が更ににじんだ。
あれ? おかしいな。
頬に冷たいものが流れ落ちる。それを冷めかけのパスタ皿が音を立てて受け止めた。
ホント、両方おいしかったのになあ。なんで、こんなんなっちゃったんだろう。何がいけなかったんだろう。
耳鳴りがしてテレビの音が聞こえにくくなっているのに、ポタポタという音だけはよく聞こえた。
化粧を済ませて、姿見の前で最終チェックをする。目の周りは特に要チェック。よし、いい!
玄関を開けると、ドアに備え付けの郵便受けからカランと音がした。開けると中には、うさぎのストラップのついた鍵がひとつ入っていた。
なんだ、かわいいのもあるじゃないか私。
私は、床が汚れるのが気になったけれど、靴のまま部屋に戻って、なまはげの隣に鍵を置いた。その横の三万円をわざと乱暴にわしづかみして部屋を出る。
私は歩きながら携帯を取り出してミナッチにメールを一本送った。
「今夜は焼肉食べたくない? おごっちゃうぜ」