恋に恋して
傘を忘れた日、折り畳み傘があるからと言って、傘を貸してくれた。
その日、バス停に向かって雨の中を傘をささずに走っていく彼を見た。
面白い本があると貸してくれた。
委員会の仕事を手伝ってくれた。
これは、単純に優しい性格だから?
それとも…
私は、どうなんだろう。
私にとって、彼はなんなんだろう。
そして、気づいた。
これが、恋。
彼は、決してかっこよくはない。
でも、初めて私に優しくしてくれた男の子。
初めて、私を女の子として扱ってくれた男の子。
趣味は、驚くほど合う。
私は、彼のことを好きかもしれない。
毎日、その事を考えていると、いつしかそれは疑問から確信へと変わっていった。
そして、私は、彼に告白した。
彼は、すぐにOKの返事をくれた。
うれしかった。
その時は。
それからは、待ち合わせをして一緒に通学するようになった。
休みの日には、デートもした。
でも、その頃から、私の胸にはある言葉がひっかかるようになった。
『なにかが違う』
そう、告白をした。
OKをもらった。
付き合い始めた。
デートもした。
初めての、キスもした。
でも、なんだろう。
楽しくないよ。
思っていたのと、なにかが違うよ。
そうだ、付き合う前の、あの他愛もないお喋りのほうが、ずっと楽しかった。
付き合うって何?
私は、この人のことを本当に好きなの?
疑問は、だんだんと膨らんでいった。
しかし、なにもできないまま、二年生になった。
彼とは、別のクラスになった。
ちょっとだけ、ほっとしている自分に気づいた。
メールの数も少なくなった。
でも、彼は私のことを以前よりも好きになってくれている。
そう感じるようにはなった。
嬉しいような、それでいて、面倒くさいような、複雑な気分の毎日が続いた。
また、大型連休が明けた。
新しいクラスにもなじむことができた。
すると、また私に話しかけてくれる人がいた。
その人も、優しかった。
その人も、私を女の子として扱ってくれた。
しかもその人は、カッコよかった。
どうして、自分は去年この人に出会わなかったんだろう。
そんな事を考えた。
それからは、彼氏といても、なにも面白くなかった。