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精霊の声が聞こえるか 1

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 俺は、すぐに何が起こったかを理解した。一方のシルクは、状況把握できずにクエスチョンマークを俺に向けている。シルクには当然理解できないだろうが、今聞こえているすさまじい騒音は、これが夢ではなく現実なのだと俺に思わせるきっかけになった。この音は俺が何年も何年も聞いてきた、最も嫌いな音なのだ。
「さっくーん!」
 一人の女が、甲高い声で叫びながら部屋の扉を乱暴に開けた。ボブに切りそろえられた黒髪を揺らしながら、むやみに明るい顔をした市川(いちかわ)美(み)桜(お)が俺の部屋に入ってきた。
 そしてその表情のまま美桜は固まった。
「さ、さっくん……」
 口をぱくつかせながら、美桜はゆっくりと話し始めた。
「そのファンタスティックな女の子、彼女?」
 俺は、口元を引きつらせて話している美桜を初めて見た。いつもは無駄に自信にあふれて叫び散らしているような奴だから、たまにはこういう顔も面白い。
「おい、サク。この女は誰なんだ?」
「俺からしたらお前の方が誰だよ、って感じなんだけどな」
 シルクの問いかけに、俺はあきれながらも答えた。
「そいつは市川美桜。うちの三軒隣に住んでる俺の幼馴染だよ」
「ちなみにさっくんと同じ絹川高校の一年です♪」
 もう少し驚けよ、と思うくらいに美桜はいつも通りに戻っていた。羽の生えた少女に、入学式の日のあいさつよろしく対応できる人間はそうそういないだろう。
「で、そちらの彼女さんはどなたなの?」
「私はシルク。サクの彼女などではなくルーフという精霊で、今はサクのチェロの弓に宿っている」
「へぇそうなんだ!」
「美桜、お前、今のでいいのか?」
「さっくんは柔軟性が無さ過ぎるんだよ」
「絶対そういう問題じゃないぞ」
「そうだぞ、サク。音楽に幅を持たせるにも広い視野が必要なわけで……」
「現実を見ることは音楽の舞台に立つ前に必要なことなんだよ!」
 このあたりで気付いた。美桜のどこかずれた言葉にツッコミをいれるのは、さすがにもう慣れている。しかしシルクまでとなると、俺の疲労は二倍どころか二乗になるようだ。
「美桜、俺もまだシルクから大した話は聞いてないんだ。今から聞くところだから」
「あ、じゃあ私も聞いておきます」
 美桜は当たり前の様に返事をした。